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92 テンペスタの家ゲット

 以前、ラヴィアンローズがフレデリックと共に作り直した森の小径と呼ばれる一画。そこまで広くない路地を覆い尽くす程の大樹が茂り、空も葉の隙間からしか見えない。

 そんな小路の中に、大樹の根が絡みつき建物を飲み込むように覆い尽くされた二階建ての家。


 使いにくいのだろうか、誰の物でもない家はまるでイザヤ達を待っていたかのように、その存在感を主張している。


「どうやって中に入る? そもそも家のドアの半分、木の根っこで抑えられていて開かないんだけど」


「2階のベランダも無理だっ。完全に覆われてる、隙間から空洞は見えるけど入れないわよ」


 身軽に樹の幹を登って行ったリンスが、上から声を掛けてきた。


「右手もダメですよ」


「同じく左側と裏もまるで木と一体化してる」


 苺と、ロマンが戻って来て言った。


「ルク、そこの窓から中は覗けるの?」


「はいっ、でもこの窓は開きませんよ。はめ込み型だし」


「ちょっとどいて」


 ルクを押し退けるように身を寄せて来たイザヤ。身体がイザヤと触れて、ルクがその柔らかさを体感した事を自慢するかのように苺とロマンの方を見る。


「いい感じねぇ、玄関はこっちでしょ。この木に少しだけなくなってもらえば扉は開くんだから」


 そう言ってイザヤが玄関を塞いでいる部分の木の根に触れていく。その手にはいつの間にかイザヤのストールが巻き付いていて、指先の布が触れるとその部分が消えていく。


「俺、あれで1回あの世に送還されたし」


「俺もお前が昇天した後に、あの布に触れてログイン場面に飛ばされた……ルクはさっきイザヤ様に触れたよな?」


「誰か鍵開けのスキル持ってないの?」


 イザヤが振り返って言った。ロマンと苺が首を横に振る。


「あっ」


 側でイザヤを見ていたルクが声をあげた。玄関の扉の色が消えて、縁取りだけが黒の線画に変わってしまったのだ。


「ルク、壊してみる?」


「えっ、どうやって?」


「その剣で討ち破れば粉々になるわ、やる?」


「はいっ、やってみます」


 リンスも2階から降りて来て、後ろから見ている。固唾を飲んで見守るメンバーの前でルクが硬牙の剣を振りかぶり、斬り下げた。


 パリンッ、パリパリピキピキ


 画面に穴が空き、ヒビが広がりカケラが崩れ落ちて行く。小さな光の粒子が風に流れて扉は消えた。


「お疲れ様ルク。あなた壊したんだから直しておいてね。よろしく」


 颯爽と中に入って行くイザヤにリンスが続く。


「ヨロシクッ」


「よろしくっ!」


「よろしくなっ」


 最後にそう言いながらロマンが玄関脇に立つルクの手に、そっと何かを渡して行った。


「3000レイ……ありがと」


 大工屋とかあるのか? と、考えながら中に入るルクであった。



 ◇◇◇



「やるわっ」


「何を? ご主人様」


「イザヤよ」


「じゃイザヤ、何をやるの?」


 勝手に入り込んだアジトの中のテーブルを挟んで、イザヤにリンスが問う。


 ガタッガタッ


「これでいいかな? ちょうど隠れるし」


 ドアのなくなった入り口を塞ぐようにチェストや棚を適当に置いて、ルクとロマンがイザヤを見た。


「暗いなぁ、私のお城も暗かったけど明るい方がいいね」


 リンスの問いには答えずに、イザヤは天井を見上げた。吹き抜けになっている2階の窓も、建物を覆い尽くす樹木のせいで光が遮られていた。イザヤは杖を窓に向かって伸ばした。


「どう? 明るくなったでしょう」


 あっと言う間に窓という窓を塞ぐ大樹の枝の部分を切り取り光の差込口を作ったイザヤ。


「2階のベランダの外も……」


 リンスがそう言うと、イザヤは浮かび上がってベランダの前で外に向かって3回指さしてから戻って来た。


「木に穴を開けたから、光は入るわ。という事で出掛けるわよっ!」


「どこに?」


 リンスだけでなく全員が注目している。イザヤの気まぐれはよくわからない。


「部屋を明るく出来たんだから、終わりじゃないの?」


 よく考えたら昼過ぎから全員イザヤに引き摺り回されている。各々リアルの事情もない事もないのだが……貰ったアイテムと今後の利益の享受の事を考えると、おいそれとログアウトなどする事は出来なかったのだ。


「復活の果実を奪う! 手伝いなさい、リンス、ルク、苺、ロマンス」


 名前を呼ばれたという事は、ギルドモードのままという事か。


「あの、面白そうだけど、どこで?」


「城。さっき通りを歩いていた集団が話をしていたの。アクエリア城でお食事会があるって。だから私も参加しようと思っていたんだけど、さっき復活の果実の通知が来たでしょ。あれ、凄かったのよ」


 イザヤがゴクリと喉を鳴らした。


「なんか怖っ」


「マジリアル」


 うっかり口を滑らしたリンスと苺を睨むイザヤ。


「あの、あのさっ、復活の果実って、お食事会って、食べるの? 復活の果実を」


「脳がトロけるわよ。ルク、あなたのちっぽけな脳みそがバターのように溶けるの」


「ペットシステムのレアアイテムって書いてあったけど、イザヤはどうして? 食べた事があるみたいな」


「ロマンスも食べたいわよねっ。急ぐわっ、あいつらに食べられる前に行かないと! 行くわよっ、それどけてっ」


 さっき、ひと苦労して設置した玄関を塞ぐ色々をすぐさまどけなければならないルクと、ロマンス。苺も手伝ってようやく皆が外に出ると、イザヤが向かいの家の玄関の画像を切り写して、ドアの無い玄関にはめ込んだ。


「「「「あっ……」」」」


 誰もが何かを思ったが、面倒臭いので誰も何も言わずに苦笑するしか無かった。

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