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35 歓喜の声のその下で

 一方、普通のプレイヤーはというと……


 芋虫クエストの廃止、音声チャットのデフォルトでの解禁、ログイン時にスポーンする場所の変更と、セーフゾーンの設置。それに伴うクエストの追加と街の仕様の変更。それからマイナス経験値の巻き戻しが行われて、一旦全員がスタートから始め直すことになっていた。


 街の声

 ——————————————————

「やっとまともに話が出来るし、俺の声おかしくね?」


「街の外を見た? あのまんまだったよ、隕石がめり込んだままで、インパクトありすぎっ。あのままで行くんだ!」


「対応が早いですね、まさかスポーンゲートが街の中心の噴水公園に移されるなんて思わなかったです」


「たしかに、1番の見所だもんなぁ。こんな壮大な水と緑の溢れる場所にいきなり出たら感動すると思うよ」


「いや、ビックリした! それにめっちゃ人が多いのにも。これだけの人が1度に集まって話をしているのに、ラグが無いって事も凄い事だよ」


「昨日付いた加護も白紙になったみたいだ」


「えー、早くない? どんな加護が昨日ついたんですか?」


「耕作LV3まで行ってた」


「ルミワームクエストですか。真面目にやったんだ」


「俺、面倒くさくなって途中で森の野犬退治をしていたよ。経験値稼ぐだけならそっちの方が効率が良かったし」


「しまったーっ! その手があったか。ルミワーム5匹なんて後からやればよかったんだ。無駄に畑を耕した俺って」


「まあ、だけど昨日は面白かったね。隕石が落ちてくるし、みんなPKされるし、GMを倒した奴もいるんでしょう」


「ネカマだろ。なんか騒がしかった奴が居たよな、声を聞いたら普通に男でなんか哀愁を感じたわ」


「こらこら笑ったらいけないって。どっかそこらに居るかもしれないのに」


「今から何する?」


「これだけ広い街なんだから、廻ってみない? NPCも個別にAIが入ってるんでしょ。話し掛けるだけでも楽しいって誰かが言っていたよ」


「みんなで行こうか?」


「そうだねー、北、南、東、西、どっちに行く?」


「えーと、北東に見える高い城があるじゃん。あそこに行ってみたい」


「あっ、俺も行きたいって思ってたとこ」


「じゃあ行きますかっ」

 ・

 ・

 ・

 ・

——————————————————



 賑わいを時間と共に増して行く噴水公園の周辺は、お互いの容姿や種族、話す声が本物なのか加工された物なのか、初めて会う人々の挨拶がひっきりなしに続いている。ガチ勢と言われる奴らは挨拶もそこそこに街の外に繰り出し、周辺の探索とレベル上げに取り掛かっている。


 ── 上手くいっているな


 広場に面した民家の2階からGMスワンが、プレイヤーの様子を確認していた。GMカルとGMバッドムRは一緒には居ないようだ。


 噴水公園の地下に張り巡らされた地下水路、その地上部分で和気藹々としているプレイヤー達は、自分達が改良されたアンタレスONLINEを楽しむ一方で、ラヴィアンローズという1人のネカマが、同時刻に巨大スライムに消化されている途中だという事を、誰も知ることは無かった。



(どうしよう? 一旦ログアウトしたけど、ログインし直したら、又さっきの地下水路に出るのかな?)


 CCは地下水路で、ラヴィアンローズを飲み込んだスライムのすぐ目の前でログアウトをした。まだこのゲームの仕様がわかっていないので、


(ログインする場所がランダムなのか? それとも、ログアウトをした場所に再びログインをするのか?)


 それがはっきりしない現状では、再度ログインする事を躊躇せざるを得ない状況であった。CCは気分を落ち着かせる為に1度VRヘッドギアを外してコーヒーを飲んだ。現実世界の生活に戻った事で、やっと気持ちが収まって来る。


(ゲームの中のラヴィさんがスライムに呑み込まれて死んだ)


 ── 思い出したく無い光景。


「はぁー、トラウマだわ」


 ラヴィの死が現実ではないと、頭の中でやっと整理がついてきた。


(このゲームって、入り込むとやばい気がする。相当気持ちが強くないと、心臓が止まっちゃうよ)


 CCはカップをテーブルに置くと、何処かに同じような経験をしている人が居ないか気になって、タブレットでネットの検索を始めた。ゲームの掲示板、ゲーム系SNS、公式サイト、色々調べてみる。


「えー! ! なんでーっ! ! !」


 SNSのゲーム速報板に、メンテ明けの状況の書き込みがあるのを見つけて、つい大きな声が部屋に響いた。


(あっ、やばっ、声デカかったかな? でもなんで? みんな噴水公園ってとこにゲートが移動したって書いてるじゃない)


「もしかして座標系のバグなのかな〜?」


 もう少し良く調べようとしたCCは、ふと手を止めて


(運営にメールするって手があった! レスポンスがどれだけ早いかはわからないけれど、私のスポーンゲートの座標がずれている事を早めに報告しておけばいいんじゃない。ついでにラヴィアンローズさんも一緒だったって書いておこうっ)


 CCは、公式サイトにある報告用のメールフォームにつらつらと、地下水路にスポーンした事や、ラヴィアンローズの事、座標の変更を大至急頼む事など書き込んで、化粧を始めた。今日は14時から友達とお茶の予定だ。昼までゲームをする予定だったけれど、あの様子では同じ地下水路にログインする可能性が高い。


(ラヴィさんって、私の事を男と思っているんじゃないかなっ? 楽しい、今度はちゃんとした場所で会いたいな)


 髪を整えてアパートを出て行くCCは、ゲームの中の魔法使いの女の子と同じ栗色のロングヘアーだった。

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