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84 かの者の想いに触れて、また1人歩み出す

紫紺の美姫 = イザヤ = 夕凪 = ユウナギ = ユウナ(通称)


ルク : ダークエルフ魔剣士 男

リンス : エルフ魔弓士 女 (中身は男)

ロマンスクレープ三世 : ヒューマン槍戦士 死亡

雨竜苺 : ヒューマン剣士 死亡


死因はイザヤの気まぐれ。


 自分達とは違う存在、例えるなら住む世界が違うお姫様に対して、敬称抜きの名前で呼びかけるにはこれ程の勇気が必要なのか?


 憧れの美女に告白するかのように、掠れた声でイザヤの名前を呼んだルクは、直立不動で立ち尽くしていた。


(ルクって絶対女の子と付き合った事が無いわ)


 ユウナとルクの茶番劇を観ていたリンスが腕組みをして、この件の顛末がどうなるのかを待っている。


 リンス自身は男である。その事はパーティのメンバーにちゃんと告げているし、ロールプレイ、つまり役になりきるという事が自分のプレイスタイルである事も理解して貰っている。リンスはエルフの女性だ、つまり今の彼はリンスという女性のエルフを演じているのであって、思考が女性寄りになっていたとしてもおかしい事では無い。



 △▽△ △▽△ △▽△ △▽△



 ロールプレイ上の女性キャラと、ネカマとは全く違う物である。男である事を隠して女の子のフリをしてキャピキャピしてるのがネカマ。ネカマ上級者ともなれば、いきなり話を振られても良いように化粧品や流行りの服の知識を持ち、トイレ休憩の時間をわざと長くとったりと、あらゆる手段を使ってリアル女子を演じようとする。


  それはもしも本物の女性プレイヤーとゲームの中で遭遇してしまった時にボロを出さない為でもある。


  だがひと言だけ言わせて貰えれば、ゲームの中の女性プレイヤーの多くは、男よりもリーダーシップがあり、男らしい判断をして、男らしく振る舞い、威厳があり、何より男性キャラを使用している事が多いのだ。


 見た目が綺麗だったり、可愛かったりするキャラの多くはリアル男子で、物騒な武器をぶら下げたイケメンキャラの多くがリアル女子、しかもガチ勢。


 つまり憧れをゲームの中に投影するのは、何も男だけでなく女の子も一緒だって事で、男だと思って女性キャラでキャピキャピして話をしていても、相手をしてくれているリアル女子からは、苦笑と生暖かい心遣いをされているのがネットゲームの実情……いや、ネカマを取り巻く実情なのである。


 これからネカマを目指す同志が居るのならば、先人達の教えを1つ残しておこう。


 理想的で、紳士で、強くて、優しくて、思いやりがあって、少し強引にリーダーシップを取る素敵な(ひと)だなって想ったならば、その人はリアル女子である。


 参考資料:俺が5年間ネカマなのを知っていて、構ってくれていた漢が、リアルダンディなバーのオーナーだった件について



 △▽△ △▽△ △▽△ △▽△



「ルク、一緒にモンスターを倒そうよ。そうしたらもっと美味しい物を買えるのよねっ」


「一緒に行くかいユウナ。近くの町にも美味しい食べ物屋さんが沢山あるんだ。僕が」


「ちょっと待ったぁ! ルクッ、ちょっとこっち来い」


 リンスが骨抜きにされたルクの襟元を掴んで、自分の方に引き寄せた。


「ユウナ、あんたに訊く事がある。ここにはアタシ達の仲間が居たはずなんだ。あんた知ってるでしょう? どうしたの?」


「ルク、リンスを消してもいい?」



 ドクンッ



 冷たい衝撃がユウナから放たれて、焚き火が消えた。

 リンスとルクの足から力が抜けて、2人はうずくまったまま立ち上がる事が出来ない。


(今のヤバイ)


(リンス、ユウナは強い。お願いだっ、仲間に出来ないかチャレンジだけでもさせてくれっ。どうせ上手く行かなきゃ2人共死ぬんだっ。間違いなくユウナが苺さんとロマンを殺した犯人だ。だけどもしかしたら)


(わかったわ。協力する)


 リンスはルクの作戦に乗る事に決めた。どうやら骨抜きにされながらも、ルクはルクなりに現状突破を考えてはいたらしい。


「ユウナ、ごめんなさい。私勘違いをしてた。 あなたが余りにも美しいから、ここに居た私達の仲間があなたに手を出そうとしたのね。だからしょうがなくユウナはやるしかなかった。それに気がつかずに犯人扱いをしてごめんなさい」


「仲良くしてねリンス。それから私には触れないで。()()()()()()()()()()()()()、ねっ」



 ユウナギと名乗ったイザヤの眼差しが、寂しさと諦めが入り混じった少し悲しい感情で染まった。



 ◇◇◇



 過ぎ行く時の中で独り立ち止まり、夜空の星を見上げて変わらぬ物の数をかぞえてみた日々。


  星の数とは人生の中で天命を全うして消えて行った人々に例えられて、それぞれに思い浮かぶ、在りし日の姿や、声や、遺された物を当てはめて忘れないようにして来た。


 イザヤに埋め込まれた不確かな記憶は、誰かの記憶と重なり合い、胸の奥からこみ上げる感じたことのない気持ちが涙となって溢れ出て行った。



 ◇◇◇



「「ユウナっ」」


 ボロボロ涙を流すユウナを見て、ルクとリンスは心からの忠誠のような気持ちを抱かずには居られなかった。

気まぐれで、ダークエルフのルクを弄ぶイザヤ。 優しい気まぐれの奥底に隠された物は、まだ誰も知らない……

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