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83 ストロベリーラブ 甘酸っぱい恋心

イザヤを目の前にしたルク。 その場面から始まります。

 ── 胸がときめく、ドクンドクン。


 ルクには、こんなチープな言葉しか頭に浮かんで来なかった。


 アンタレスの世界で、冒険者、つまりユーザーが選ぶ事の出来るキャラクターは、大きく分けるとヒューマン、エルフ、ドワーフの3つしかまだ無い。 それぞれの人種の中で、男女や年齢に応じたアバターが用意はされている。 しかし目の前に居る(ひと)はそのどれでもない唯一のキャラクター、この前のサーバーの統合で追加されたハーフエルフでも無いヒューマンの女性、あんな髪自体ユーザーの設定には存在しない。


(ユニークだ。 近くで見るの初めてだ。 すんげぇ綺麗、超顔ちっちゃい、マジかマジかマジか)


 リンスの存在をすっかり忘れてしまったルクが、パーティチャットで呟いた。


(なにそれ、ちょっとルク、ちょっと、なんか魔法とかかけられてない? それチャーム系の魔法かもよっ、ロマンの最期の言葉覚えてるっ? 俺もうダメとか言ってたでしょ。 しっかりしてっ、じゃないと背後から撃つわよ)


(あっ、いやっ、大丈夫、大丈夫。 敵意は無いようだ。 これから彼女とのコミュニケーションを試みる……)


「あほかっ」


 遠くの茂みの中で構えていた弓を降ろしながら、ルクの態度に呆れたリンスが呟いた。



 ◇◇◇



 ルクは構えたままだった剣を鞘に収め、焚き火を挟んでイザヤの前に立った。


「こんにちは、あの改めまして、俺は冒険者のルク。 あなたはどなたですか?」


「ダークエルフってお前のこと?」


 青い瞳が真っ直ぐルクを見つめる。


「あっ、あぁぁぁ」


 だらしない声がルクから漏れる。 首を傾げてから手にしたチョコレートビスケットをひと口齧って、またニッコリ微笑んだ。


(あの口元についたビスケットのカケラ、とってあげたいっ)


(うっさい、死ね)


 リンスもベースキャンプに近づいて来ていた。


(全く男共って、どいつもこいつも可愛けりゃチヤホヤしてさっ。 節操が無いわっ、本当に馬鹿だから騙されるのよっ)


(違う、この人は違うんだっ)



「あなた、ダークエルフでしょう? ねぇ、これ美味しいね。 まだあるの?」


「はいっ、まだいくつか持ってます。 必要とあれば買って来ます」


「かう? かう、かうって、買う、そうか、買う」


 イザヤの中で情報がリンクされて行く。 大元となるリンク先が何処なのかは分からない。 それはイザヤ自身も意識する事ではなくて、何故か次第に理解してしまうのであった。


「これは買う、ルクが買うのね。 お金? そう、お金が必要なの。 ルク、私お金が無い。 ルクは?」


「はいっ、この森でモンスターを倒して得たアイテムを町で売ればお金になりますし、町のクエストももうすぐ終わります。 その報酬で更にお金は手に入りますっ!」


「ちょっと待って、何言ってんのよルク。 クエストの報酬はみんなのでしょ」


 森から出て来たリンスがイザヤを睨みながら言った。


「可愛いホッペにビスケットが付いてるわよ。 ここっ」


 イザヤに向かって自分の頰を指差しながらリンスが言った。 それを見てイザヤがビスケットのカケラが付いている方とは逆の頬を手で押さえる。


「あっ、あっ、ぼ、僕が取ってあげ」


 バシィィィィンッ


「うわたぁっ」


 リンスからお尻を蹴り上げられたルクが、悲鳴をあげた。


「反対側の頬よ。 はぁ、私はリンス。 エルフの魔弓使い。 あなたは誰なの? ユニークさんでしょ」


 頬についたカケラをやっと摘んで、そのまま口に入れたイザヤが嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう、リンス。 美味しいねこれって、あなたも持ってるの?」


(ルクっ、正気に戻ったか?)


(あっ、あぁ。 何となく痛かったぞ)


(だよねっ、そんな気がするよねっ。 見ていて痛かったわ。 何が僕が取ってあげる? あぁもう虫酸が走るんですけど。 いいっ、この女が苺さんとロマンを殺ったに違いないのよっ。 あんたも死ぬ気? スキル値が激落ちして、クエスト未達成でこんな遠くから帰るなんて、もう訳わかんないんだからしっかりしてよっ)


「悪いけど、無いわっ。 それにそれって私達の携帯糧食じゃない、なんであんたが食べているの?」


「お金を払う。 うーん、でもお金を持っていない」


何かを訴えるように、青い瞳がルクを見つめる。 リンスが右脚を引いて、蹴りの用意をした。


「お金なら僕が」



スパァァァンッ



「いだぁぁ」


「うっさい、お尻は痛く無いでしょ。 いちいち痛がるフリすんなっ」


触覚と痛覚の違いをアンタレスでは、はっきりと区別することが出来ていた。 痛みではなく当たった感触がルクにはあった。 ただし激しくリンスから蹴られた衝撃と音はしっかりと受けている。 だからつい痛いと言ってしまっていた。


「私のお金が要るのね。 そこのドケチなエルフ、どうすればお金が手に入る? お前はお金を持っているの?」


(持ってる、持ってるけどそう言ったらどうなるの? 苺さんやロマンのように……)


「残念だけど私持ってない。 お金は自分で稼がないといけないのよ。 だけどこの森のモンスターが強すぎて倒せないの。 だから、お金が無いの。 あなたの名前がまだ分からないけれど、あなたが食べた物は私達の物だからお金は払ってね。 お金を持っていないんだったら、モンスターを倒してお金を稼いで私達に払ってくれたらいいわ」


「ルク」


甘えた声でルクを見つめるイザヤ。


「俺が君の為にモンスターを倒すっ。 その代わりに名前を教えてくれないかっ」


「言わなければダメ? ルク」


ゆっくりとした言葉づかいでルクを見上げるイザヤ。 その前に、首を餌を目の前にしたワンちゃんのようにブンブン縦に振るルクが居た。


少し口を尖らせて、イザヤは言った。


「ユウナギ、夕方の静かな海、夕凪。 ユウナって呼んで、ルク」


(えっ、俺が呼び捨てをしてもいいの?)


「ユ、ユウナッ」



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