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81 イザヤの意思

ダークエルフのモフモフうさぎを追ってイザヤが現れた。

(ダークエルフ、どこに居る)


 イザヤは城を飛び出した後、外の世界に巨大な樹を見つけた。 天にそびえ立つその異様な姿を目にして、彼女は空中で止まってしまい近づく事もままならず、隠れるように地面へと降り立った。


(あまり好きじゃない感じがあの木からはするわ。 ふーん柔らかいね、この緑の道。 足跡が無いし、どこにもダークエルフなんて居ない。 どこ?)


 緑の道は巨大な樹の方へと続き、反対側はアクエリアとは逆の方向に伸びている。 イザヤには少しの知識があった。 いつかのアクエリアの街は南にあった。


 艶めいた黒髪の先を赤く染めあげたイザヤ。 風が髪を揺らすのが気に入らないのか、極彩色のストールで髪を後ろに束ねて顔を露わにした。 その瞳は青く、薄くひかれたルージュが仮初めの可愛らしさを与えて、一見心を覗いてしまうようなキツイ眼差しを和らげている。


 両手の爪の色はピンクに塗られ、紫と黒と赤のベルベット生地のドレスに身を包む姿は、他を寄せ付けない圧倒的な美で固められていた。


 巨大な樹を右に大きく迂回するように、森の木々の上をイザヤは飛んで行く。 樹が見えなくなる程飛んで、魔力が少し減ったのに気がついた。


(地面にはファンフルグアナコがうろついているから、もう少し開けた場所を探して休もう。 私の召使いの誰かがダークエルフも飛ぶと言っていた気がする。 先に飛んでいった奴が早ければ、私が急いでも直ぐに追いつく事は無いのだろうし)


 更にイザヤは南に向かって飛んだ。 すると森の中に煙が立ち昇る場所が見えた。


(ダークエルフか?)


 煙の手前で地面に降り立ち、疎らな木々の雑木林の中を少しだけ浮いて進んで行く。


(この匂いは何?)


 少し先で人の話し声がしている。 匂いに誘われるようにイザヤは近づいて行った。



 ◇◇◇



「もう出来た」


 そう言いながら、自分の携帯糧食の袋を開けたヒューマンの剣士の雨竜苺は、チョコレートクリーム入りのビスケットパンの匂いを嗅いで笑顔になった。


「俺のは?」


 周りを見張っていたヒューマン槍戦士のロマンスクレープ三世が、鍋から取り出して蓋の上に置かれている5つの袋を見て言った。


「ロマン三世のは茶色い袋」


「モスグリーンの2つは、ルクとリンスの分」


「残りの2つは?」


「ロマン三世とルクの分。 さっきの戦闘でHP減ってるし回復ポーション勿体ないからご飯で回復」


「ラッキー、ありがとう苺」


 褒められてさも当然の様に、澄ました顔の口元にチョコレートをつけた雨竜苺は返事をせずに遠くを見た。 ダークエルフのルクと、ヒーラーで弓使いのエルフのリンスが回復薬に使う薬草を採りに行っている。 その苺の背後で物音がした。


 別の場所からルク達が帰って来たものと苺が振り返った。


「えっ、誰?」


 突然森の精霊が現れた。


「誰だ、お前」


 槍を構えてロマンスクレープ三世が言った。


 宝石が散りばめられたドレスに気圧されるように、雨竜苺は近づいて来るイザヤに対して何も出来なかった。


「ねえ、その食べ物は何?」


 イザヤが、苺が食べているチョコレートビスケットサンドを指差して言った。


「精霊様、それとも女神さまですか?」


(この人間は何を言っているの? 精霊、女神、私は女王)


「無礼は万死に値する」


 ハラリと、髪を束ねていたストールが解けてイザヤの肩に掛かり両手の先に布の先端がなびく。 イザヤがすっと手を伸ばすとストールの先が雨竜苺の顔に触れ、雨竜苺は消えた。


 ボトリッ


 雨竜苺が手に持っていた携帯糧食が地面に落ちた。


「げっ、まず。 こいつ敵だっ」


 そう言った後、ロマン三世はパーティチャットを使ってここには居ないルクとリンスに連絡を入れた。


(ルク、リンス、緊急事態発生! ベースキャンプが襲われた。 はははっ、俺も駄目だ。 さいならっ)


(えっ、ロマン。 おーい、ロマン)


「どうしたんだろ、緊急事態って今言ってたよね」


「取り敢えず帰ろう、気をつけて行く。 あの2人か居ないとこの森を抜けることさえ難しくなってしまう」


 この森は体長15m程の大きさの、ファンフルグアナコが生息している。 鹿の様な生き物も居るのだが、昼間に姿を見せる事はあまり無い。


 急いでベースキャンプに戻るルクとリンス。 2人でこの森を抜けるのは自殺行為に近い。 自然とベースキャンプが近づくにつれ、2人は武器を手にしていたのであった。

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