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78 シャドゥ ゼロ 忘却の世界

(麦達とはここでお別れだ)


((ローズ、お別れだ))


(じゃあな、また話そうな)


((エルフ、さらばっ))


 ラヴィが切り立った崖の縁に立つと、あからさまにおかしい事に気がついた。


「モフモフさん、影が無いね」


「んっ、どこ?」


「ほらっ、そこにある木もそうだけど、雲の影も消えた。 今太陽は雲に隠れてる、なのにこの崖に囲まれた空間は太陽に照らされているんだ。 影がないけどね」


 そう言ってラヴィは石の階段の上に乗った。 崖に突き出した樹木の影が、本来あるべきばしょに全く無い。


「本当だ、 どこにも影がねぇ。 ヤバイんじゃねえのか? 影を盗まれると俺たち、あっ……」


 目の前に居るはずのラヴィと話すモフモフうさぎ。 ラヴィの光学迷彩と化した糸に包まれた2人は、お互いに姿を見る事が出来ない。当然影も無く、2人の盗まれるという事は無いはずだ。


「余計な事は言わない。 だよね、モフモフさん。 最近特にそう思うようになって来たんだ。 僕がアンタレスに何らかの影響を与えているし、行く先々で出会う人達が本当の人のように振る舞うようになる。 この前の温泉旅館の女中さん達って、まるで中に人が居るみたいじゃなかった?」


「敢えてNPCって呼ぶけど、ラヴィちゃん、もはやそれは間違いない事だよ。 たった1人のラヴィちゃんという存在がNPCが人に変える様な変化をもたらしていってる、そんな感じだよな。 だから俺がこの世界で何かを喋る事で世界が変化していくんじゃ無くて、ラヴィちゃんの前で何かを喋ることで世界が変わって行ってしまっている。 そうか…… これで納得が行くぜ。 もしかして俺達は勘違いしてたのかも知れない」


 2人の姿は見えない、麦の精霊達も姿を消した。 パーティチャットで話をしているので、モフモフうさぎとラヴィの声もこの場所には無い。 影の無い世界は異様である。 遠近感が無くなり、遠くの物体の立体感が失われてしまっている。


「帰った方がいい気がするぜ」


「僕もそう思う。 食事会の準備もあるし、この場所は普通じゃない、帰ろうモフモフさんっ」


「そうだな、緑の道はちゃんとある。 何気に安心だわ」


 麦の上に立つモフモフうさぎが振り返って、緑の小径が消えていない事を確認した。


 ゴロゴロゴロ・・


 ラヴィの足元の大きな石の階段がエスカレーターの様に動き出した。 その上に乗っていたラヴィがそのまま崖下に向かって降りて行ってしまう。


「ラヴィちゃん、ジャンプッ」


 モフモフうさぎが言ったそばから、崖に突き出した樹木が蔓に姿を変えてラヴィを追って崖下に伸びていく。 ラヴィの姿を見る事は出来ないが蔓の伸びていく先にラヴィは居る。 1つ1つの階段が大き過ぎてラヴィは自力で登って来る事が出来ない。


「モフモフさん、足が、足が地面から離れないんだっ」


「まじかっ、俺はどうしたらいい?」


「この階段はあの滝の裏側まで繋がっている。 このまま行ってみるよ。 足が離れないから階段から落ちる心配も無いし、もしかしてこういう仕様なのかもしれない。 あっちに着いたらまた乗ってみる、今度は登りになるんじゃないかな」


「わかった。 気をつけてな」


 崖から顔を覗かせて蔓の伸びる先を見つめるモフモフうさぎ。 左下に伸びている階段がエスカレーターの様に動いている。 モフモフうさぎの足元のから次々と階段のブロックが現れて階段は途切れる事が無い。


「大丈夫かぁ、ラヴィちゃん?」


「いや、滝の裏側から誰か出て来てる。 こっちを待ち受けているみたい。 あっちには僕が見えていないはずなんだけど、どうかな?」


 影の無い世界を見つめるモフモフうさぎには、平面で理解に苦しむデザイン画の様な世界が広がっていた。


(やべえ、脳が追いつかねえ。 動きを止められるとどこに何があるのか分かりづらいぞっ。 やべえぞここは、考えたく無いがこれって絵の中の世界みたいなやつじゃねぇか?)



 ── アンタレスの世界の皆様へ、ワールドクエスト発現ニュースです。 本日午後14時23分に、ワールドクエストが発現しました。


クエスト名:【 忘却の世界 Shadow ゼロ 】


 《 ワールドニュース 》


 ユニークアイテムが同時に発現しました。 あなたは手に入れる事が出来るのか? こぞってチャレンジしてください。


 《 クエストフィールド 》


 古代兵器の眠る森。 ゲートキーパーが冒険者を待ち受けています。 奴らを倒さねば忘却の世界への扉は開きません。


 ※ ゲートキーパーは既に、ユーザー名 [ モフモフうさぎ ] によって倒されました。


 この世界の何処かにあると言う


【 忘却の世界 Shadow ゼロ 】


 冒険の扉が今開かれた!!



 ワールドニュースがログイン中のユーザーの視界に流れた。



「マジか、つーか俺の名前だすなよ」


「あ〜あ、また名前が売れた。 モフモフさんも大変だねぇ」


「大丈夫か、ラヴィちゃん。 マズイぞこのクエスト、アダムスの続きじゃねぇか。 スワンの奴何も言わねぇし」


「ぎゃー、大丈夫じゃねぇぇぇぇ」


 ラヴィの声がチャットの中で響いた。

ゲートキーパー [アダムス] は、忘却の世界を守る門番だったのだ。 アダムスは強かった、つまり忘却の世界はそれだけレベルが高いと言える訳で、ラヴィは大丈夫なのだろうか?

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