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74 世界樹への緑の巡礼路

 飛行船エリスロギアノス号の1番奥の部屋から、ロゼッタの屋敷を経由してアクエリア城へと帰って来たロゼッタとリサの2人。 帰ってくるなりロゼッタの声が城の廊下に響く。


「衛兵っ、ロゼッタよ。 2分。 西の厨房付近っ!」


 ロゼッタの鈴のような声が何かを伝わって行った。


「お姉様、リサも言って良い?」


「何を? 衛兵はもう呼んだわ」


「お姉様の糸でしょう。 いつの間にお城に張り巡らしてしまったの? リサはどこまで声が届くのかちょっと興味があるの。 だからいいでしょ?」


 色を持たない透明なロゼッタの糸、その存在を知っているからリサはそう言うのであって、知らなければさっきの小さなロゼッタの声が、どうして城の衛兵まで届いてしまうのか不思議に思ってしまうだろう。


「お父様が大広間に居る。 行きましょ」


 首を傾げるリサ。


「どうしてわかったの?」


「声が聞こえた」


 ロゼッタの指が壁際の見えない何かに触れている。


「リサの声もその糸で伝えるの」


 リサが人差し指の先から自分の糸を飛ばして、見えないロゼッタの糸に絡ませた。


「ピンポーンっ! もしもし、衛兵のハートの3番さん。 リサのお願いっ、監獄塔の部屋を普通に戻してっ。 ピンポーンパンポーン」


 ロゼッタの目の前で、伝言ゲームを楽しそうな顔でやって見せたリサに、今度はロゼッタが首を傾げるのであった。



 ◇◇◇



「モフモフさん、元に戻すのは無理だよ」


「えっ、どして?」


「全て消えてしまってるから。 存在のカケラすら残ってないよ」


 ラヴィが一直線にえぐられた黒焦げの道の真ん中に立って言った。


「折れたりしただけなら戻せるけど、ライジングサンって破壊王だね。 本当に何も残っていない」


 真っ黒い地面からは緑の声が返って来ない。 斬撃を免れた道の両側の木々や草花からは、モフモフうさぎに対する怒りの声は聞こえず、ラヴィには明るい挨拶の声をかけてきている。


「どうした? ラヴィちゃん」


 動きの止まったラヴィを見て、モフモフうさぎが辺りに注意を払う。


「あのね、森が言うんだ。 緑の絨毯を敷き詰めればいいって。 動物達がこの道を通る事ができるし、ここからとても遠い場所までずっと繋がるこの道を残せばいいって。 踏まれても大丈夫な植物が今、立候補して来たんだ、もうすぐこっちに来るよっ」


 ラヴィの緑の力の奔流は、もう既に森に流れ始めていた。 それをモフモフうさぎは紅竜リハクのように感じる事は出来ない。 来ると言われてキョロキョロと周りを見回すモフモフうさぎの目に、黒く続く道の彼方の色が変わるのが見えた。


 トンッ


 軽く地面を蹴って空に飛び上がったモフモフうさぎが見たのは、黒い直線の道を、鮮やかなグリーンに染めながら自分達に迫って来ている光景。


「すげぇ、うわぁ、来る来る来る来る」


 急いで降りて来たモフモフうさぎが、ラヴィの隣に立って道の先を指差した。 緑のうねりが轟音を立てて迫って来ている。 ラヴィが大声で叫んだ。


「モフモフさんっ、せーのでジャンプ。 行くよー、せーのっ、ジャンプッ!」



 アハハハハハハ


(子供の笑い声?)


 モフモフうさぎは、空を飛ぶのではなく普通にジャンプをした。 隣の ラヴィよりも少しだけ高く飛び上がって、宙返りしながら通り過ぎていく緑の絨毯の行方を見る。


 緑を引き連れる2人の緑色の小人と、手を引かれて、まるで引きずられるように連れていかれるラヴィの姿が見えた。


(まずい、えっ、笑ってる?)


 緑の子供達と一緒にラヴィも笑っているのが、モフモフうさぎには聞こえた。


 一気に緑の匂いに包まれた芝のような絨毯の上に降り立ったモフモフうさぎが、敷かれたばかりの緑を蹴ちらさないように1度飛び上がって空気を蹴ってラヴィを追う。


 緑の絨毯が途切れる森の窪地の縁。 そこに腰掛けて足をぶらぶらさせているラヴィの隣にモフモフうさぎがやって来た。 ラヴィを見ると窪地の向こうに空に向かってそびえ立つ世界樹を見つめていた。


「今のは?」


「あの子達はあそこ」


 ラヴィが指差した先は窪地の中だった。 窪地の中の地面を緑で埋め尽くして行く緑の小人が2人。 紅竜リハクとモフモフうさぎが、古代兵器のゲートキーパー、アダムスとの戦いの跡も全て緑で覆って行く。


「行こっか、モフモフさん」


「あの子供達は?」


「緑で埋め尽くしたら満足して消えるよ」


「妖精なのか?」


「気のせいだよ、木の精……」


「俺にも見えた。 気のせいかな…… ふっ」


 モフモフうさぎには緑の小人の歓声が聞こえている。 足元に生えた少し伸びすぎた芝のような植物は、立っていても柔らかく心地良い。


「あの子達がさ、遠慮なく踏んでいいって言ったんだ。 夏になったらいい物をあげるからって」


「麦か、踏んでも良いって言うんならさ」


「そうかもね。 まだ3月、いやもう4月になったのかな? 麦は夏頃に実るからね、その頃また来ようか」


 まるでそこへ繋がる為に作られたような一本道は、緑の道に生まれ変わった。 何処から始まる道なのかはまだわからない。 ただ、もしもこの道に出くわしたなら、この道を辿れば世界樹へと辿り着く。


「どうしたの? モフモフさん」


 モフモフうさぎの両手に、ライジングサンが現れていた。


「あちらさんからお出ましだぜ、ちょっくらご挨拶に行ってくるわ」


 そう言ってモフモフうさぎは飛んで行った。


「全然見えないや。 緑さん達、誰かこの道の先に誰か居るの? もしかして冒険者かな」


 ラヴィも立ち上がって駆け出した。 道のかなり先の方で、キラリと光を反射したのはモフモフうさぎのライジングサンのようだ。


「敵かな? それとも盗っ人の仲間なのか……」


 わからぬままに、ラヴィはモフモフうさぎの後を追った。

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