66 リサのカケラの行方
(見つけた、光を失った塊。 これがC.Cの中枢回路の部分だ。 この中にC.Cが閉じ篭っているはず)
リサが両手で角のない菱形の塊を挟み込むように持った。
(沢山の紐が伸びている。 この短い紐がC.Cの姿形を再現してて、他の細い紐はそれを制御する為の物。 1番上から伸びている長い紐が現実世界のC.Cと繋がっていた紐)
リサはアンタレスの世界の中のC.Cの中枢回路を特定した事で、リンクするプログラムの紐以外を一旦通常空間として可視化状態に戻す。
刃が今にも床に突き刺さりそうな、吊り天井が見える部屋の入り口の外でリサは上を見上げた。 通常ならこの紐は空に向かって伸びている。 今は監獄塔の最上階の階段の真上、石組みの斜めの天井しか見えず。プログラムとして世界を捉えているリサ以外には、階段に埋め込まれたボンヤリと光る石の明かり以外は真っ暗な世界であった。
「さあっ、行くわよリサ。 C.Cと会ったら優しくしなきゃ。 絶対上手く行く、ローズの時も出来たもん。 あの時と一緒」
◇◇◇
「リサ? 何してんだ」
「リサね、気づいたの。ローズは死んじゃ駄目なの、リサのせいで死なさないの、リサの分も生きて欲しいの、こんなリサが居たって忘れないでいて欲しかったの…… 嬉しかった、本当に嬉しかったの」
繭のように幾重にも2人を包み込むリサの糸。
腕の中のリサを見たラヴィアンローズは言葉を失っていた。リサの体にヒビが入って行く…… 着ている服にも、長い髪にも、綺麗な顔にもヒビは広がって行く。リサの全て、リサという存在が今まさに壊れてしまいそうになっていた。
「ありがとう」
ブワッと繭が白い花びらとなって舞い散った。
◇◇◇
あの時、リサを形作る素子はプログラムのカケラとなりながら、ローズに言葉のメッセージを残して消えてしまったように見えた。 しかし実際はそうではなかった。 量子系記憶媒体の世界との融合、ひとことで言えばそれがリサに起きて、あの時リサとローズを取り巻く植物のプログラムにリサのカケラが埋め込まれて行ったのだ。
埋め込まれたのはバラバラになったリサの中枢回路の部分。 元々植物を操るという特殊な能力を与えられていたリサと、周りに存在していた全ての植物には常時開放型のチャンネルが存在していたので、リサのカケラを取り込む事自体に、何の障害もなかった。
しかし起きたのはそれだけでは無かった。 リサの中枢回路がバラバラになった時に、リサのいちばん近くに居て彼女を胸の中に抱いていたローズの中枢回路にも、バラバラになった大量のリサのカケラが突き刺さっていた。
そのカケラは、リサに対して心を開いていたローズとの融合を成し遂げ、ローズの中枢回路の中で新たな居場所を見つける事に成功した。 ローズがそれを拒否すれば起きなかったかもしれないプログラムの改変という奇跡。
── それを奇跡と呼ぶのならば、その奇跡の証がラヴィアンローズの右頰にある薔薇のタトゥー。
リサこそが、ラヴィアンローズをこの世界に引きずり込んだ張本人だったのだ。