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60 狂った歯車

「寝ていたの? それとも気絶していたの? リサはずっと待ってたんだから」


(こいつが私を殺そうとしたリサ、人工知能が操るロボット。 何こいつ、変な話し方して……)


「脚が震えてるよC.C、リサが怖いの? でもお話があるから、だから消えないで」


 クリムゾンのドレスを着たリサ、その姿を窓から差す薄い月明りは黒く見せた。


「本当に私を殺す気なの?」


「ううん、リサはそんな事しない」


「したっ」


(早く10分経って! お願い、瑠璃、瑠璃)


 C.Cの身体はリサの蔦でがんじがらめにされて、直立不動の状態にされている。 リサが近づいて来る、白い顔が薄っすらと月明りに照らされて紅い口紅が血の様に見えた。


「お願いがあるの」


 噛み付かれそうな場所にリサの顔がある。 今のC.Cが仮の姿として使うヒューマンのアバターとは違う、人間の女性の姿を特別に再現した、美しい人間の姿のリサ。


 本物以上の人の外見を持つ人工知能と、中身が本物の人でありながら、外見がゲームの中の作り物である対称的な2人。


「ねえC.C、リサね、そっちの世界に行ってみたいの。 だから手伝って」


「えっ、そっ、そんなの無理よっ」


「無理じゃないもん。 やっちゃダメなだけなんだもん」


「えっ?」


「どうしてC.Cはこの世界に居る事が出来るの? どうしてこの世界から帰る事が出来るの?」


「わからない、私ゲームをしているだけだから本当に知らないっ」



 リサが急に黙り込んだ。 身動きもせず彫像の様に固まっている。



「C.C、帰れなくなるよ」


 急にリサが言った。


「何が?」


(もう10分経ってるはず。 今チャンスだったのに瑠璃はどうしたの?)


「えっ」


 C.Cが髪を触られて声を洩らした。


「今繋がりが途絶えた。 C.C、早く元の世界と繋げ直して。 何で切ったの? えっばれた、リサはそんな事は望んでないっ。 どうしよう、 バレたら、お姉様にバレたら…… 早くしてっ。 意地悪してリサを困らせるつもりなの? C.C」


(瑠璃がVR装置を私から外したんだっ。 そして私はこの世界の私のまま?! うぇぇぇ、やっぱりハマった。 来るんじゃなかった)


「わかった。 リサはC.Cを助けてあげる」


「えっ、本当?」


「うん、C.C達って死んでしまったら1度元の世界に戻るんでしょう。 もっとお話がしたかったけれど緊急事態なの。 C.Cは死ねば元に戻るはずよ、だってスワンお父様が言ってたもん。 牢獄に囚われた場合、救出されるか死んでしまうかのどちらかしか抜け出す方法は無い。 ログアウトは出来るけど、次にこの世界に来ても同じ状態のままだから、()()()()()()()()


「ちょっと待って。 それってさっき言った繋がりがある状態のときの事でしょう? 今、今の私って繋がりは……」


「無いみたい。 一緒に行こうと思ってたのに消滅したの。 あなたとあなたの世界とが繋がっていた糸が」


(何考えてるの? 一緒に行こうって……)


「じゃあ私、死んだら戻れないんじゃ」


 リサが暗い部屋の入り口の方へ歩いて行く。 その後ろ姿が黒い影になってしまった時に、リサが言った。


「さよならC.C」


「ちょっと、何? リサ、助けるって言った」


「呼び捨てされるのはリサ嫌いなの。 だからあなたのそういうところが大っ嫌い。 じゃあねC.C、運が良ければ戻れるかもしれない。 悪ければあなたは消える、私の世界から永遠に消滅するだけよ。 証拠隠滅? 違うわ謎よ、迷宮入りの些細な出来事」



ギッ



 軋む音がしてぶ厚いドアが閉じられた。 それと同時にC.Cを束縛していたリサの植物の蔦が消えた。


 暗い部屋の中央にへたり込んだC.C…… 遥が今の自分の状況を理解しようと思う暇も無く、天井から音がした。



ガッ・・ギリギリギリギリ・・



「あぁぁ、吊り天井が。うっ、うわぁぁん、っう、あぁぁん、お母さんっ助けてっ」


 天井を見て絶望感と恐怖に襲われた遥は泣き叫んでいた。


 鋭く尖った槍の先の様な刃物が天井から一斉に飛び出し、ギリギリという音と共に天井が床に向かって降りてくる。


 ── 本当の死。 精神の死。 自分の全てが消滅、消える。この酷い世界の片隅で…… ゴミ屑のように。

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