32 連帯責任!モフモフうさぎの危機
ちょうどその頃、つまり俺がスライムの餌となっていた頃に、モフモフうさぎさんにも、実は大変な事が起きていた。
◇◇◇
10時にメンテが明けるってか。昨日は結局早寝になったし、飯食って準備万端! ログインしたら、まずは昨日ゲットしたレア武器のライジングサンを装備してみないとなっ。
3・2・1・Go! アンタレスにログイン、イェーイ!
【古代竜の信仰の谷】
んっ、なんて書いてる? 古代竜の信仰の谷ってなんだ?
モフモフうさぎの見ている画面が自分自身の視覚と重なり合っていく。完全に一致したとこでモフモフうさぎは気がついた。
あれ、どこだここは? なんで? アクエリアから始まるんじゃないのかな? つーか、ここどこ?
モフモフうさぎが立つのは断崖絶壁に両側を囲まれた谷の底だった。強い風が吹き続きモフモフうさぎの体を煽る。
なんでぇ? 俺だけしか居ないのか? ラヴィちゃんとかもうログインしてるよな。というか他の人が居ねーよ。
カーンッ、カーンッ
崖の落石の音か?
グウェーアッ、クィェーヤァ、グウェーアッ
悲鳴のような耳に突き刺さる鳴き声がした。
鳥の鳴き声か? いや、やっぱり違うよな。
見上げた空、いや、空は霧がかかって見えない。黒っぽい崖がVの字に広がって続いている。後ろを振り返っても同じ景色だ。モフモフうさぎは身を隠す場所を探した。
明らかに危険な鳴き声が聞こえた。俺に気がついて鳴いたのかもしれない。確か、古代竜の信仰の谷だっけな。あの鳴き声が竜だったらどうする?
それにしても誰か居ないのか、わからねぇ、まっ、とにかくあの茂みの中に隠れて様子を見よう。
ダークエルフであるモフモフうさぎは、身を低くして1番近い緑の茂みへと走り滑り込もうとした。その瞬間、背中に悪寒を感じる。
空気を切り裂く音がして、直後に激しい風の塊に背中を押されてモフモフうさぎは緑の茂みにもんどりうって倒れ込んだ。
痛え、背中がズキズキする。痛えって、えっなんで本当に痛えんだ、このゲーム痛みまで感じるわけ? まじ? でも本当に背中が痛いんだけど。
── あっ、そうだ
俺の椅子の背もたれの調子が悪くて外してみたんだった。クッションの部分が、無いから骨組みに背中が当たって痛いんだ。
びびったぁ、背中を切られたかと思ったよ。
モフモフうさぎは一応背中に手を伸ばして血が出ていないか調べてみた。大丈夫、服も破けていない。
怪我をしていない事を確認すると、声をひそめて特に上空の様子を伺う。さっきの空気の塊は何かが空から襲ってきたに違いない。
間違っても竜とかじゃないよな?
グウェーアッ、クィェーヤァ、グウェーアッ
鼓膜に突き刺さる鳴き声がさっきよりもかなり近くで聞こえた。
マジかっ、どうすんべ。一回落ちるか? いや、そう言えばどこにあるんだ、ライジングサンは。
[ライジングサン : ユニーク武器、種族に応じて変化]
── フムっ。
モフモフうさぎはアイテムボックスを開いた。