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49 温泉街の秘密

 肩までお湯に浸かると、岩風呂の底に敷き固められた丸石の感触が足裏に心地良い……


「大丈夫かなぁ、隣って盛り上がってるね」


 ラヴィの隣にリサが居る、なのにあれほど見たかったリサの裸体をラヴィは露骨に見る事が出来ない。


「ローズ」


「何?」


「見ないの? 見ないんなら隠しちゃうよ」


「えっ、見るっ」


「スケベッ」


 リサはもう胸を手で隠してはいなかった。 半透明のお湯は微妙に水の中をボヤけさせて、ラヴィが見たい肝心の所が良く見えなくて……


「ローズ、近いっ!」


 リサが両手でラヴィを押し退けようとした。 身を起こしたリサの水の中に隠れていた乳房が露わになって、ラヴィの目の前で揺れた。


 マジマジと見ているラヴィの視線にリサも気がついて、お互いそのままの状態で固まってしまう。


(うわぁ柔らかそう……やばいやばいっ揉んでみたい)


 危険を察して、リサはリサの糸で薄いレースのような白い布を胸に巻きつけて隠してしまった。 でもそのままお湯に浸かるとその布が身体にぴったりとくっついて、ラヴィの妄想と分身(ぶんしん)は膨らむばかりだった。



 ◇◇◇



 露天風呂に繋がる渡り廊下が母屋と繋がる場所は、30畳の和室で、長いテーブルが部屋の中央にデンッと置かれていた。


 濡れた髪を乾かすドライヤーなんて物がこの世界には無い。 浴衣を着たお風呂上がりのリサは、髪に櫛を通しながら風の魔法を使っている。 しっとりと艶のある髪は櫛を通すほどに潤いを増して、乾いたはずなのに綺麗にまとまっていく。


「うさぎは遅いね」


「変なことは出来ないはずだから、大丈夫だと思うけど」


「ふーん」


 まるっきり信用していない返事をしたリサがちらっとラヴィの様子を見て櫛をポーチの中に戻すと、テーブルの上に置いた鏡を覗き込んでまばたきをした。 エメラルドグリーンだった瞳の色が、昔のリサの茶色い瞳に戻った。


「リサびっくりしたの。 ローズがケダモノに変身するのかと思った」


「あっ、ああ」


(確かに変身した部分もあったけど……リサってそっちの知識はどこまであるんだろう?)


 すくっと立ち上がると、リサは渡り廊下の方を見た。


「リサはもういいよ。 ローズ、喉が乾いたしお腹もペコペコ。 何か食べたい」


「リサは何を食べたい? 花雅の本館にあるレストランに行こう。 あそこって和洋折衷な料理が食べれるよ」


「うさぎが遅いの」


 まだ露天風呂から帰って来ていないモフモフうさぎ。 さっきラヴィとリサが露天風呂から出る時も、花雅の女中さん達と大層賑やかだったけど、さすがにそろそろ帰って来てもいいはずだ。


「ハーレム状態だったからなぁ」


「お姉様も大変ね、いく先々で女を作る浮気性なうさぎが相手じゃ」


 そんな事を言いながらリサがまたラヴィをちらっと見た。


 慌てて首を横に降るラヴィ。


「浮気したらコロス。 お姉様が良く言っているわ」


 ラヴィの顔色を見てから、リサが続ける。


「でもね今回は、ラヴィも共犯だし、リサは傍観者だったから、何も見なかった事にする。 うさぎはリサに借りが出来たの」


 ラヴィがゴロリと畳の上に大の字になって寝転んだ。


「あああっ」


 久々の畳の上で身体を伸ばしてラヴィは目を閉じた。湯上りで気分が飛びそうな感覚、気を抜けばこのまま寝てしまうだろう。


 ラヴィが目を開けると、側にリサが来ていた。


「リサは正座はきつくないの?」


「リサも日本人だから」


「んっ?」


 ── リサの言った言葉の意味がよくわからないラヴィであった。



 ◇◇◇



 昨夜は遅くまで花雅本館で食べた。 モフモフうさぎと楽しい時間を温泉で過ごした女中さん達が、引き続き食事のお世話までしてくれた。



「ロビーちゃんとリハクはここに来るかな?」


「どこに行ったかわかる? ラヴィちゃん。 緑に聞いてみたらどう」


「うん、もうリサが」


 リサが花雅本館の玄関の外で、植え込みに向かって話しかけていた。 植物同士の繋がりでどんどんリサの言葉が伝播していく。 伝播するには緑の力を消費していくのであるが、ラヴィがすぐ側に居る今はその心配は無かった。


「うん、ありがとう」


 植え込みの薄いピンクの花に言葉をかけてから、リサがラヴィ達の方へ戻ってきた。


「どこかわかった?」


「うん、温泉街の宿で名前が『湯曇り荘』だって。 ここから街の方に降りてすぐの、ひなびた温泉旅館らしいわ」


(リハクとロビーちゃんがなあ……)


 昨夜の事があるので余計な事は言わないモフモフうさぎ。


 程なくして下から花雅へと坂を登ってくるリハクとロビーの姿が見えた。あちらの方もラヴィ達に気が付き大きく手を振っている。


 手を繋いでリハクを引っ張るように戻って来たロビー。


「おはようっ、みんな。 あっリサ。 昨日は来なかったけれど大丈夫だった?」


「うん、行けなくてごめんね」


 示し合わせたかのような2人の会話。


「どうだった? 何かあったの?」


 とぼけた様子でロビーが聞いた。何かあったと言えば、全員に何かあった。しかし誰もその事に触れようとはしない。


 温泉街の秘密。 各々が羽を伸ばしたひと夜の出来事であった。

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