47 花雅別邸 庭の露天風呂
「リサ、さっきのわざとだろっ」
ロビーとリハクは2人きりでトボトの夜の温泉街に別の宿を探しに行ってしまった。
リサが奥の襖ふすまを開いて、隣の部屋を覗いている。振り返ったリサはエルフの姿から元に戻っていた。
「不思議な感じ、この扉? 紙で出来てるみたい」
「襖って言うんだ。 確かに紙と木で出来てるよ」
「座ってもいい? リサ、疲れたの」
「うん、それじゃあついて来て。 リサの部屋は別にあるから」
ラヴィが縁側を真っ直ぐ歩いていく。 リサの部屋は花雅別邸の1番奥の広間、開放感のあるガラス張りの洋室だった。
「この部屋にも専用の天然温泉掛け流しの露天風呂があるし、隣の部屋はベッドルームで、クローゼットルームがこっちで、キッチンはここ。その他欲しい家具があったら用意するから」
カーテンは開け放たれている。 少し離れたトボトの温泉街の喧騒が、ここでは静かでただ街の明かりが見えるだけ。
「ローズの部屋はどこ? さっきの畳のお部屋?」
「うん、僕は畳の部屋。 小さな部屋だよ」
(小さな部屋。 隠れ家みたいな8畳の四角い部屋。 壁にモニターをつけてコタツがある部屋だけど、居心地がいいんだ)
「リサもそっちに行く」
「うん、後でぜひ来てみて。 一緒に映画見ようよ」
「リサね、この部屋はいらない。 ローズ、お風呂行こっ」
◇◇◇
遂にこの時が来た。いつかはあると思っていたリサと一緒に温泉に入るというイベント。 そりゃあ俺も男だから、リサの裸を見てみたいし、一緒にお風呂だって入ってもいいはずなんだ。 ただきっかけが無くて、自然な成り行きを演出しようと思ったら、結局こんな立派な温泉街を作るという暴挙に出てしまった訳だけど。
◇◇◇
(来ねえ、いつまで待たせんだ。ここの露天って、打たせ湯に、寝湯、檜風呂に岩風呂、湯の色も乳白色と透明に薄茶色、もう1個奥の風呂は青色だった。 いま俺が浸かっている湯はトロっとしていて、肌にまとわりついてヌルヌルする感じ。 めっちゃ気持ちいいから、 褒めてやろうと思ってるのにラヴィちゃんが来ない。超遅えぞ、もしかしたら別の場所の風呂に入ってるとか言うんじゃ無いだろうな? それもリサと混浴で……)
ガラガラ
(隣の女湯の扉の音がしたっ!?)
「うわぁ、広いっお風呂。温泉? これが温泉って言うのねっ!」
「リサ、滑るから気をつけてね」
(えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! まじかっ、ラヴィちゃんとリサが一緒にお風呂に一糸まとわぬあられもない姿で2人っきりで居るっ)
隣の女湯とは木の柵で区切られただけで、天井は無い。 当然会話は聞きたくなくても聴こえて来る。
「ローズっ、うさぎは居ないわっ。 暑くてもう出てしまったのかしら?」
(いや、ここにいるけど、ってそっちは女湯だろーが)
「いやたぶん隣に居ると思うよ。 だってあっちが男湯だもん、おーいっモフモフさーんっ!」
(はーいっ、とか返事を返すとでも思ったのか? 甘いぜっ、こんだけ待たされたんだ。 うっかりラヴィちゃんとリサが何かやらかしても、それはたまたま聞こえただけで、敢えて聞いていた訳ではないから俺は無罪。 さあっ、さっさと何か始めろよっ)
「返事がないね。 もう上がったのかな?」
「ローズ、熱いっ。あっ、向こうに滝があるっ」
「だからリサは走らないって」
2人の声が遠のいた。
(フッ、聞き耳立てたりして何やってんだ俺は。なんか虚しくなってきたぜ……)
モフモフうさぎが風呂から出ようと立ち上がった。
ガラガラッ
「こんばんはぁっ、って誰も居ない?」
「えっ、居るはずよ。 だってそこに脱いだ服があったもん。 しかもあの服ってダークエルフのイケメン君が着てたはずよっ」
「まじでっ? ちょっとあたしどうしよう。 あの方ってクニークルス男爵でしょう。 ラヴィ様とは大親友の」
「なるほどねぇ、ラヴィ様が後でお風呂に入って良いって言ってたのはそう言う事か」
「どう言う事?」
「お背中を流せって事よっ。 ラヴィ様は、いつも昼も夜も無く働いてくれるみんなに感謝してるってさっき仰ったじゃない。 きっと私達にご褒美を下さるおつもりだったのよ」
「ちょっとそこで止まらないっ! 早く中に行けっ」
「「「 はぁいっ 」」」
(キタァァぁぁぁっ! まさかの女子との遭遇。 ってマジかぁ、みんな ハ・ダ・カ ラヴィちゃん、ありがとう)