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41 とある本。

 ラヴィが、カップを手に書棚から本を一冊抜き取った。


 復活の果実の果樹園を作ってしまった今日は、別に急いでアクエリアの城へ帰る必要も無いのでゆっくりしても構わない。それにそもそも書棚に隠された秘密の扉を見つけてしまえば、この場所からアクエリア城のどこかに辿り着くのだから。




【 秋に見つけた白い花 】


 タイトルはラノベ風ではなかった。本の真ん中の辺りを開いて見ると、次のような文章が書いてある。


 ◇◇◇


 ── コンクリートとアスファルトしかない私の毎日の風景。


『今日はお休みします』


 簡単にメールを入れて、私は会社を休んだ。会社の仕事の事なんてもう知らない、だって私は休むって決めたんだ。折り返し何度もメールが届くし電話も鳴っているけれど、頭が痛くて音を聴くこと自体が苦痛なので、返事はメールかFAXのみでさせていただきますって頭の中で返事を返した。あっ、そう言えば休むとメールを入れたのも、会社の別の部署の友達になんだけど。


 取り敢えず清々しい朝イチの缶ビールを空けて、あくびをしてみた。


 ・

 ・

 ・


 無言でラヴィは巻末のページを開き直した。



 ── 明日どうするかを決めるのは自分でなくてはならない。ならば花占いで仕事に行くかどうかを決める事にした私は、やっぱり私らしく生きているって事になる。


 この素晴らしい世界の中で、私の明日を決めるのは駐輪場の脇の花壇に咲いている小さな白い花。1枚ずつ花びらを千切っていこう。


 仕事に行く、休む、どちらから始めようか?


 決めたっ!


「 休む、行く、休む、行く、休む……」


 時折肌寒い風が通り抜ける。 私の足元に散った白い小さな花びらは風にあおられてどこかに飛んで行った。私に千切られるという役目を果たしたのだから、あの花びら達にも今日まで一生懸命に咲いてきた意義があったはず。


 最後の1枚は『行く』だった。


 ちょうど目についた別の花壇に、花びらの少ない綺麗な花が咲いていた。


 ── あっちの方が私は好きだったんだ。


 手にした1枚しか花びらが残っていない小さな白い花を、駐輪場に停められている自転車の前カゴの中に投げ捨てて、私は別の花壇へと歩いていった。


 秋に見つけた白い花、花びらの数が少ない白いコスモス。


 茎を折って花を手にした私は、花びらが6枚あるのを先に数えた。黙って数えたから神様だって私が数えた事に気がつく事は無いはずだ。


 お仕事にはちゃんと行かなくちゃね。だから今度は『行く』から数え始めるわ。


「行く、休む、行く、休む、行く、休む」


 愛おしい白い花びらが1枚残っていた。あなたは休めと言うのね。


 帰り際にもう1度同じ自転車の前カゴにコスモスを投げ捨ててから、私はいつもと同じ独り言を呟いていた。


「明日も休なきゃ、はぁ…… 毎日つらいわ」


 ◇◇◇


 ラヴィは憮然とした顔をして、手にした本を本棚に戻した。緑への侮辱、命への侮辱、小説だとわかっていても、植物の命を軽んじた反吐が出そうな内容で、ゴミ箱があれば投げ捨ててやろうかと思ってしまった。


「そろそろ帰ろうか」


 怒りを抑えて平然を装いながらラヴィは言った。


「書架に隠された謎はもう解けたの?」


「いや解いてない。というかなんだか凄く嫌な本を読んじゃった」


「ふーんリサもたまにあるよ、嫌なお話の本。外の世界にはいろんな人が居るって知るのも、そんな本からだったりするけど」


 リハクは黙って2人のやり取りを見ている。


「なんか気分が晴れないから帰って温泉に入りたい。トボトの町に出かけないか? リハクも一緒に」


「リサ行くのっ、ローズが今までとっても秘密にしてきたトボトの夜の町をウロついてやるわっ。 冒険の始まりよっ」


「秘密はいっぱいあるよ、 温泉街にしたからね。 癒されるよ」


 広々とした露天に入って肩まで浸かる自分を想像しながらラヴィが言った。


「じゃあリサは書架の謎解きを始める事にするわ。 見てなさいローズとリハク。 名探偵リサの登場よっ!」

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