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40 風も使えたんだ!

 確かに廊下の壁には他に絵画などは架けられてはいない。等間隔に並ぶ街灯のような照明が延々と続き、その先は同じような明るさの壁で終わっていた。


「この絵はもうダメみたいね」


「さっきモフモフさんが俺専用って言ってたし」


「可能性は試す物よ。もしかしたらなんだから」


「そうだね、で次はどうしよう?」


「ちょっとローズどいて」


 そう言ってリサは今でて来た部屋の扉を開けようとした。


「どした?」


「開かない」


「他に部屋も見当たらないようだ、取り敢えず先に進むべきではリサ様」


「リサはリサなの。リハク、だからリサって呼ぶの」


 そう言ったリサは腰のポーチから小さな箱を取り出した。


「なにその箱?」


「お化粧する時に使うの。綺麗な粉が入ってる」


「リサってお化粧してたの?」


 口を尖らせて箱の蓋を開いたリサを見て、まずい事を言った事に気がついたラヴィ。リサは細い指で中に入っている白い粉をつまむと、呪文を唱え始めた。



「我は風を呼ぶ、そよぐ風、時を越えて姿を見せよ。我が名は愛と緑の女神リサ、我の名において風よ吹け」



 リサの指先から、流れるように白い粒子が風に乗って飛んで行った。細かい粒子が廊下の壁や天井、床に至るまで全てを撫でるように風と共に流れていく。


 左の通路の突き当たりまで辿り着いた風は、今度は向きを変えてこちらに戻って来た。ラヴィとリハクが風の邪魔にならないように、リサの隣に並んで通り抜ける白い粉が舞う風をやり過ごす。


「喋ってもいい?」


 小さな声で言ったラヴィの肩に、リハクが触れた。


「ラヴィ様、リサは今集中されています。お邪魔せぬように」


 風はラヴィの身体を包み込んで通り抜けて行った。



「見つけたっ」



 リサが右に向かった風の方へ走り出した。右側の通路の真ん中辺りのランプの下で、風が巻いている。


 風が巻いている場所の照明の真下に四角い線が浮き上がってみえた。それはリサの白い粉が集まって示した物で、何かの印のような物に見える。


「ありがとう、またねっ」


 フッと風がやんだ。


「リサ、もういい?」


「うん、見つけたよ」


「いや、リサって風も操れたの?」


「うん、緑は風が無いと育たないの。風にのせて種を運ぶお友達も居るわ。ローズの住んでいた港町にも居たよ、ダンデライオンさん。もうすぐ自分は姿を変えてロゼットになるけれど、その前に綿毛をつけて種を蒔くって言ってた」


(あっ、確か道路で犬森道玄さんと話していた時に、リサはタンポポと何か話してた。俺は道玄さんと話してたから聞こえなかったけれど、そんな事を話してたのか)


「リサの制服姿って似合ってたよ」


「学校」


「んっ?」


「この世界には学校が無い」


「だねっ」


「だからリサは学校を作るの」


「うん、えっ?」


 リサが制服を着て学校に通う姿を想像して、言葉に詰まるラヴィ。


 後ろから手を伸ばして、リハクが四角い印の場所を手で押した。



 ゴトッ



 鍵が外れる音がして、目の前の壁がラヴィ達の方へせり出して来た。人が通れる扉の大きさに区切られた壁は、静かに横にスライドして止まった。


「ほらっ、正解。リサって凄くない?」


「入りましょう」


「リサ凄いっ!」


 リハクを先頭に部屋の中に入って行く3人、そこはロゼッタの書棚が置かれている部屋。1階の外が見渡せるガラス張りのお茶室だった。


 部屋に飾られている縦長のタペストリーがある部分が、秘密の扉だったようだ。ラヴィが最後に部屋に入ると再び壁は元に戻った。


「懐かしいね」


 頷いたリサ。窓の外は断崖絶壁で遥か彼方にカルデラの外輪山としての反対側の縁が見える。


 崖の高さは正確には300mあって、この場所こそがラヴィとリサが、2人で身を投げた場所だった。


「リハクも聞いて」


 おもむろに語り出したリサは、窓際の椅子に腰掛け窓から斜め上を見た。


「私とラヴィアンローズのお話」


 ローズと言わずに『ラヴィアンローズ』と呼んだリサ。


 まだ続いている2人の物語の始まりを語るには、悪く無い場所だった。


「俺、お茶入れようか?」


「うん、リサはとても甘いのがいいの」


「それは良く知ってるよ。リハクは何を飲む?」


「古い記憶の中に、琥珀色の暖かい飲み物を好んで飲んでいた自分が居る。まだあるのか? この世界に」


「紅茶かな? 入れてみるよ。砂糖は?」


「お任せする」


 ◇


 ラヴィがキッチンに消えたあと、リサがどんな話をリハクにしたのかは分からない。ただ、ラヴィが3人のお茶を持って帰って来た頃には、リサとリハクはテーブルを挟んで学校の話をしていた。


「リハクは先生ねっ」


「勿論リサもですよ」


「嫌っ、リサは絶対に生徒になるのっ」


「じゃあ俺は?」


 帰って来たラヴィに、リサが言った言葉は


「同じクラスの同級生で、いつもリサの事を見守ってくれるボディガード、変更あり」


 金で縁取られた赤いカップはリサの物。俺はしっかり持てる薄い緑色のマグカップ、リハクは品の漂う真っ白なカップ。


(変更ありか…… その話が実現するといいね、リサ)


 以前見た時よりも蔵書の数が増えている書棚を眺めて、中身が気になるラヴィであった。

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