33 【連結魔法陣式】魔弾砲台
モフモフうさぎが上空から見下ろす円形の窪地、その周りは緑の森である。窪地の中央に存在する首無しの人型、アダムスにばかり注意を払うモフモフうさぎの反応が少し遅れた。
グンッと引きずられるような感覚で、浮いていた空間から200m程モフモフうさぎの体が移動した。その事を把握する前にもう1度移動する。
── 音の無い攻撃。
赤と黒の混じった長い槍のようなビームがモフモフうさぎの居た空間を立て続けに襲った。
(すまねぇ、全然気がつかなかった)
2度目の予期せぬ移動の後に、モフモフうさぎがライジングサンに言った。掠めることは無かったが、相当なエネルギー量の魔弾であった。次弾を警戒しながら襲ってきたビームの出所を探す。
(あそこだ)
ライジングサンの言葉と共に、モフモフうさぎの体の向きが変わった。視界が移る間に、眼下のアダムスが地上に墜落したエリスロギアノス号の方へと移動を始めているのが見えた。
そちらに向かおうと体に力を入れたモフモフうさぎに、ライジングサンが言った。
(待てっ、森の中に浮かぶ魔法陣が見えるか? )
(ああ、見えた。2箇所あった。あの魔法陣って重なってるのか? 今1個増えたぞ)
(急げっ所有者よ。あの連結魔法陣が完成するまでの間……)
全てをライジングサンが言う前にモフモフうさぎが動いた。
── 連結魔法陣とは、魔法陣をいくつも重ねていった物。 その中を魔弾が通過すればそれぞれの魔法陣が持つ魔力の特性が魔弾に付与される仕組みだ。
いくつ重ねるのかは分からない、だが連結魔法陣を完成するまでの間は次弾の発射は無いはず。そのタイミングが今で、まず先にそちらを潰せという事だ。
連結魔法陣が作られていく場所に向かって矢のように飛ぶモフモフうさぎの体を、両手のライジングサンが発する光と燃え上がる紅蓮の炎が広がり包み込む。
勢いのままに光刃乱舞を先に叩き込み、そのまま連結魔法陣に突っ込んで行った。
(見えたっ、砲台じゃねぇか)
森の木々が邪魔してその姿を隠した、黒いイビツな形の大砲が3つ連なる魔法陣の背後にあった。
4つ目の魔法陣が薄っすらと浮かび上がった所を、モフモフうさぎが魔法陣ごと右手の剣で斬りつけようとした。すると、紅蓮の炎を纏った右手のライジングサンが、灼熱の赤に色を変えた。
(紅竜の舞)
そう言ったライジングサンが、モフモフうさぎの身体に憑依してコントロールを奪った。
(任せるっ)
(しかと見て覚えよっ所有者)
── モフモフうさぎの舞と共に炎が舞う。飛び散る火の粉は、炎の後に続く白光の刃に触れて塵と化して消えていく。
砲台が溜め込んだ魔力を切り裂いた瞬間、虹色を帯びた波が空間に広がり、それが再び収縮して行った。
モフモフうさぎの右手のライジングサン、その鍔の部分に埋め込まれた紅竜リハクのドラゴンオーブの中の炎が燃え上がり、輝きを増した。
「もう1個砲台があったな、こっからやれるか?」
窪地を挟んで反対側に連結魔法陣が小さく見える。いくつ魔法陣を重ねるのかは分からない。飛んで近くに行くには窪地を横切らねばならないのだが、下にはアダムスが居る。
(良かろう)
再びモフモフうさぎを動かし始めたライジングサン。左手を前に突き出すと、そこに縦に直径2m程の金色に輝く魔法陣が現れた。そして右手を突き出し紅い魔法陣を手前に並べる。
2つの魔法陣が回転しながらモフモフうさぎの前にある。
(力勝負か…… あちらも用意が出来たようだ)
── 窪地を挟んで魔法陣を重ねた魔弾の威力勝負。
(おいおい大丈夫か?)
(いくぞ所有者、我が名はライジングサン。 闇を統べる者とは我の事よっ)
疲れ切ったままでそっと瞳を閉じると、それしか見ない夢を我はまた繰り返す。黙って背中を向けるお前に、我は何を問いかけようか? なぁモフモフうさぎ、未だ我の所有者よ。
モフモフうさぎとの念話の外で、ライジングサンは呟いた。
『エレクティカ・カノン』
双剣の間の空間に生じた赤と黄色の混じる魔弾が、眩い光を放ちながら撃ち出された。
ドゥゥゥンッという音を伴って、次元が揺れた動いた。
── 赤く焼けただれた1本の道が森の奥、遥か彼方まで続く。そこにあったはずの連結魔法陣の砲台は、姿形を微塵も残してはいなかった。
凄まじい威力を目の当たりにして、再び使う事は無い、いや使ってはならないと自らを戒めるモフモフうさぎが、その道の[はじまり]に立っていた。