30 戦闘配置につけっ!
「総員配置に着けっ!」
ロゼッタの声が艦橋に響く。
「了解、リサ、メインシステムとリンク完了しました。これよりSFOS 《 センシティブ・フライト・オペレーティングシステム 》 に移行します」
リサはゆったりとしたパイロットシートに身を包み、目の前に展開する擬似映像の中に浮かぶエリスロギアノス自体と同調していた。エメラルドグリーンの目が、淡い燐光を放っている。
「左舷砲塔ラヴィ、いつでもぶっ放せます!」
SCS 《 センシティブ・コントロールシステム 》という補助機能がラヴィのコックピットには採用されていて、必要な情報はラヴィの目の前の空間に、大きさの違うスクリーンとして必要ないほどの数が展開していた。
「うさぎっ!!!」
返事をしないモフモフうさぎの目の前にウインドゥが開いて、ロゼッタの顔が映った。
「緊急事態なの、みんなの力を合わせないと勝てないわ。だからお願い、あなたの力を貸して」
正面前方の主砲を担当するロゼッタが、通信回路を開いてモフモフうさぎに言ってきた。
「やるしかないのか?」
役者風に声色を変えて応えてみたモフモフうさぎ。まるで攻撃を躊躇している主人公が言ったかのようだ。
「ええ、覚悟を決めて」
「わかった。右舷砲塔モフモフうさぎ、こっちは任せろっ 」
モフモフうさぎの言葉を聞いて、安心したのか緊張を残したままのロゼッタの口もとに笑みが戻った。
(取り敢えず役をやり切るしかないっ。しかしラヴィちゃんはノリノリじゃんか)
── モフモフうさぎそう思うのも無理はなかった。ラヴィアンローズがオンラインゲームで好きなジャンル、それはシューティングゲーム。 戦闘機を使用するゲームではカスタマイズした愛機で撃墜王の称号まで取るというハマりようで、自らの腕を試すまたとない機会であったのだ。
「リサ、スキャンは継続したままで。リアルタイムで分析した映像をみんなに回してっ」
もはや人型の演算装置となったリサから、窪地の底の大地の中をスキャンした映像が3人のコックピットに送られてきた。地中に埋まる正体不明の何かの姿を表示する赤い線が、回転してそれを立体的に見せていた。
「生き物か、ロゼッタ?」
「いいえ違う。そうじゃない、眠っていたのを起こしてしまったのは私たちの方よ」
(何が? もっと簡単な弱い敵にしてくれよっ)
「ロゼッタ! つまり奴はガーディアンなのか」
ラヴィちゃんが叫んだ。
「違うの、あいつは……あいつは過去に封印された……」
(はあぁぁ? 面倒なのはやめてくれよっ)
「 アダムス」
ロゼッタがアダムスの名を言った。間髪入れずにモフモフうさぎがラヴィに内線を入れた。
「ラヴィちゃんっ、頼むから何も言うなっ。これは完全にロゼッタの暴走だっ。 アダムスは何? とか聞いた返事が無敵の古代兵器とか言われたら、下手すりゃアンタレスが滅びて終了って事も起きかねないぞっ」
「敵、動きますっ! 地面が割れました。敵の姿を確認。アダムス、古代に造られた魔物です。ゲートキーパーとして長い間この地に眠っていた模様。当船は魔法陣による船体下部への魔法障壁の展開が完了。機体を前傾にして攻撃態勢に入ります」
ラヴィが何か言う前に、リサの声が流れた。
── 地面から地表に姿を現したアダムス。見た目が禍々しい首無しの巨大な人型であった。
エリスロギアノスの正面から見えるアダムスは、土煙を上げながら起き上がり、目覚めの1発とばかりにその右手の人差し指をエリスロギアノスに向けると、ビームを撃ってきた。