29 果樹園を作るはずが
「ちょっと今ピンと来たんだ。だってさ、地面って本当に最初見た時は平らだった。でもさ、ロゼッタが会話に絡むといきなり中央が盛り上がっている。何かおかしくない?」
「つまりあれか。ロゼッタがそうだと思っている事が現実に起きている」
「うん」
「どうしたらいい?」
チラッとロゼッタを見るモフモフうさぎ。ロゼッタは盛り上がった地面の様子を拡大して、その画像の隣に分析図を表示させていた……まるで何かに取り組む探検家のように。
「あの様子じゃ完全に怪獣退治するつもりだぜ。つーことはあの地面に埋まっているのは、ちょっとだけ図体のデカい怪物に間違いない」
「やめさせられない? 本来の目的が全然違う方向に向かって行っているみたいだし」
「どうせ戦うのは俺達だろ。適当にやっつけてロゼッタを満足させてから城に帰ってもらえばいいんじゃね」
「そうかな」
ラヴィが心配そうにロゼッタを見て、その視線をリサまで移した。
── スワンの用意したクエストフィールド用の量子系記憶媒体を母体とするのは、ラヴィもリサもロゼッタも同じである。ラヴィはシステムとの融合により、味覚や感覚の影響を色濃く反映させた張本人だ。しかし、ラヴィだけがその力を持つとは限らない。それは常々ラヴィが考えて来た事であった。
「モフモフさん、さっき船内を回ってきたんだけど各部屋がクエストフィールドの世界と繋がってるんだ。つまりこの船の中はほとんどあっちの世界と言っていいぐらい」
「了解」
納得したモフモフうさぎが、ロゼッタの方へ近づこうとした、その時
「リサっ、エリスロギアノス号を第1次戦闘態勢へ移行してっ」
「はいっ、お姉様。エリスロギアノス号、通常巡航モードを解除。戦闘形態に変更しますっ!」
「「 はいっ? 」」
ラヴィとモフモフが揃って声をあげてしまった。
床が黒いパネルに変わっていき、同時にラヴィ達のソファ椅子が床の中に消えて、左右と正面前方にカプセル型のコントロールボックス、まるでコックピットが床から盛り上がってくる。
── 左舷右舷の砲門担当と、真ん中は主砲を担当する席だ。
「どちらでもいいから、うさぎとローズは席に座って。私は今回は真ん中に座るわ」
「どういう事?」
モフモフうさぎが操縦室の内壁が、戦艦の艦橋に変貌していくのを見ながら言った。左舷にも右舷にも黒い巨大な砲塔が前方に伸びて、即ちそれを操縦しろという事。
「ちょっとラヴィちゃん、 ええっ!?」
ラヴィは左舷のコックピットに収まり操縦桿を握って、既にゴーグルまで着けていた。
「腕が鳴るっ。孤高の迎撃主と呼ばれたラヴィ、参るっ!!」
頭にシューティング命と書いたハチマキまでしたラヴィを見て、やるしかないのかとモフモフうさぎも左舷のコックピットに身を潜り込ませるのであった。