26 メイド姿のロゼッタ
この日の夜はラヴィ達は城に泊まることになった。モフモフうさぎは、風呂入って寝てからまた出て来ると言って一旦ログアウトしていった。
── 翌朝
エリスロギアノスに乗り込んだスワンが果樹園を作る為に用意したという地点を設定していた。
「よくこんな船を作り出したな。デザインからしても完全にこの世界にミスマッチだぞ」
継ぎ目の無い流れるような船体は、最先端の空飛ぶクルーザーと呼ぶのが相応しい洗練されたデザインだった。モフモフうさぎがイメージする空を飛ぶ船とは、マストが何本も立ち、帆を広げて風を受けて進む木造船みたいな船であって、そっちの方がこの世界にはマッチすると思うわけだ。
「モフモフが言うのは帆船の事かな?」
「あっそうそう、帆船。 帆船ってなんか中世って感じじゃん。 プレイヤーもこれから冒険に出かけるって気分が盛り上がると思うぜ」
力説するモフモフうさの話を、操舵輪の所から黙ってロゼッタが聞いている。ラヴィとリサとリハクは船内の探索中だ。相変わらずの物理空間の拡張が施されていて、天井の高い通路の両側に並ぶ扉の中は亜空間。つまりアクエリアとは別のクエスト用のワールドに直結されているのであった。
「風を受けて走る帆船が、風を前から受けながら空を進むというのは空力学的に無理がある」
「魔法の世界なのに、その辺はちゃっちゃとやればいいじゃん」
「ロゼッタの希望でこの船になったんだが」
ロゼッタが最近好んで観ている映画はスペースオペラなどのSF系が多かった。モフモフうさぎもつい先日それに付き合ったばかりだ。
「なるほどな。ということは外装の色は変更可能で不可視状態に出来るって事だな」
モフモフうさぎがロゼッタと観た映画に出ていた宇宙船の設定を思い出して言った。
「うん、だから基本的に空を飛ぶ時は地上からは見えないようになっている」
「昨日はスケスケだったぞ」
「あれは船内の内壁に外の風景を映し出しただけなの。壁が透明になったわけじゃないわよ」
ロゼッタがソファに座るモフモフうさぎの前に来て言った。
「お父様のお食事会の準備を任されたから、今日は一緒に行けないの。ねえ見て、お食事会の時に着るドレスなの」
目の前のロゼッタの服が首元から下に向かって変化していく。基本原理はリサと一緒で、ロゼッタの糸が服を形どっていくのであった。
「あぁ、スワンやばい。なんでロゼッタにこんな服を着せんだよ」
── 紫ベースのメイド服。しかもスカート丈が短い。
(俺だけのロゼッタが、欲望だらけの男達の前に晒されてしまうなんて嫌だぁぁぁ)
「私だって似合うでしょ、うさぎ。 ネットでアニメを見て決めたの。 どう? 鼻血でた?」
前かがみになってうさぎに迫るロゼッタ。
「ロゼッタ、ロゼッタ。お願いだからスカートの後ろを抑えてくれ。それ以上見せるの禁止だぁぁぁ」
振り返ってスワンの方を向いたロゼッタは、今までスワンには見せたことの無い、いたずらっ子の笑顔を浮かべていた。
△▽△▽ △▽△▽
「ラヴィ様、私は出来れば城下の街に行ってみたいんだが」
エリスロギアノスが出航する予定時間は朝10時。今はまだ7時過ぎだ。城の外に出掛けて帰って来ることも出来なくは無い。
「リハクは目立つから駄目。リサみたいに普通なら大丈夫だけど、あなたは真っ赤っかだもん。身バレしちゃうよ」
リサがリハクを上から下まで眺めて言った。マントが赤いのは替えれば良いが、髪と目が真っ赤なのは流石にアクエリアの街では目立つだろう。
「だからリサはどこでそんな言葉を覚えて来るんだ?身バレとかさ」
「本。今読んでるのは、身分を隠して盗賊まがいの事をやって世直しをするお姫様の話。 街の人々にばれてしまいそうな事を身バレって言うの」
納得したのかしていないのか、リハクは次の扉を開けて中を覗き込んだ。
「ラヴィ様、この部屋は空を飛ぶ事が出来ますよ」
扉から清々しい風が流れ出てきた。