23 空を飛ぶ船エリスロギアノス
ガラオロス山の冒険 ep.23
ドームの中は、外の陽が傾いたせいか少し暗くなっていた。モフモフうさぎが飛び込んだ時の熱気はもう抜けていて、少し冷えた感じがした。
「この百科事典みたいな本だ」
モフモフうさぎが何気に手を伸ばして、書架から一冊の本を取った。どの本も赤い背表紙で金色のナンバー以外違いはない。
リハクも適当に本を手に取った。
「ふむ」
「まじか……」
リハクは頷いただけ。 モフモフうさぎは今度はナンバー1から順に手に取っていった。中を見るつもりは無いようだ。
「8から上は何もないな」
「魔法の書だったな、覚えたか? モフモフうさぎ」
「ああ、本を手にするだけで魔法を会得した。全部で7個だ」
── 赤の魔導書、世界各地のどこかにあるという色付きの魔法の書物の1つ。手にしなければ会得する事が出来ない特殊な魔法が収められている。
「つまりこの神殿は火の神殿って事で間違い無いな」
ドームの入り口から外に出て行きながらモフモフうさぎが言った。
ブオォォォォォッ
空に向かって炎の槍が飛んで行った。
「凄え上まで飛んで行ったな」
空に向かって手を伸ばしたままのモフモフうさぎ。手の先の空に炎が小さく見えた。
「今のは対空魔法として使える、フレイムシュートだ。この場所の魔力が強すぎて、あり得ない威力になっていたがな」
「お前には効かない?」
「ああ、もちろん」
「リハクも使える?」
リハクが両手を空に向けた。
「うわっ」
ラヴィの声が後ろから聞こえた。
ババババババッ……
リハクの両手から炎の槍が次々と生まれ、同時に10本放たれた。ロケットのように空に向かって飛んでいく。
「なんじゃそりゃ、俺とレベルが全然違うし」
「今覚えたばかりのお前と一緒にするな…… しかし弾かれたか?」
「弾かれたって、何?」
リハクが見つめる空の方向に、小さな点が見えた。
「ローズ、何あれ? もしかしたらまたドラゴンなの?」
大声を出したラヴィが、リハク越しにリサが指差す方向を見た。
「いきなり炎の槍をリハクが構えてるからびっくりしたじゃん。リハク、敵か?」
「いや、わからぬ。だがこちらに向かって来ている。速い、もうすぐ来るぞっ」
風を切って巨大な白い躯体が真っ直ぐ聖堂を目指して来る。
先端から後ろに行くにつれて流れるように膨らみ力強いフォルムの飛行体、全体が流線型で元の形はクルーザーだったような物。それはスピードを落とし静かに聖堂の広場の上までやって来ると、地面から1m程残して空中に浮かんだまま静止した。
── 優雅な佇まいの船の名は【エリスロギアノス】 全体が真っ白で全長は30m程か。推力を生む4つの金色の魔法陣が、今は船の下側でゆっくりと回転している。
正面の部分に見える黄金に輝く紋章に見覚えがあって、リサが船に駆け寄った。
「お姉様っ!」
船のサイドの部分が開いてタラップが降りて来る。リサが駆け上がって行った。
「迎えに来たわ、早く乗って。お客人も一緒に」
船から響いたのは、ロゼッタの声だった。
△▽△▽ △▽△▽
「なんか凄すぎるな、ちょっと落ち着かないよロゼッタ。外の景色って消せる?」
船内の前方の部屋が操船部分になっていて、部屋の中央に操舵輪が鎮座している。そこに立つのはリサ、ラヴィと交代で船を操船していた。
操舵室には窓が無い、その代わりに壁全体が透明となって外の景色を見る事が出来た。流れる景色の中で身の支えとなる床すらも透明で、ソファに座って周りを見ているモフモフうさぎは居心地が悪かった。
「ビビりね、うさぎって」
「リサ船長はどっからそんな言葉を覚えて来たんだ?」
古い映画に出てきそうな木で出来た操舵輪を持つリサは、海賊風の衣装に着替えている。着替えたというよりは糸で服を変えてしまったのだが。
「キャプテンって呼んでローズ。リサね、フェリーに乗った時に船を動かしてみたかったの。夢が叶っちゃった」
前方の空間に航路が浮かび上がった。
「リサ、このままエリスロギアノスをアクエリア城まで飛ばして。お父様が今日はお待ちよ」
航海の指揮をとるロゼッタの姿も海賊風だった。何かの映画を見て影響を受けたに違いないが、金のネックレスやブレスレットをジャラジャラさせているロゼッタも新鮮な感じがした。
編み込んだロゼッタの長い髪に触れたい衝動を隠してソファに沈み込んだモフモフうさぎは、星空になったアンタレスの空を見上げて目を閉じた。