21 果実を実らせて
ガラオロス山の冒険 ep.21
「あっ、確かスワンに種を採って来いって言われてたよね。このクエストの目的って復活の果実の種を手に入れるってのだし」
それを聞いてリサが樹と話を始めた。ラヴィもそれに加わる。
「つまり、復活の果実はまだ実って無いって事なのね」
「だよなぁ。緑の葉が生い茂ってはいるけど、どこにも実がなってないし」
ラヴィとリサと樹の会話の中身は、ラヴィ達の相づちから想像するしか無い。
「じゃあこの樹が復活の果実の樹で間違い無いって事かな?」
モフモフうさぎが腰に手を当てて樹を見上げて言った。
── 樹高は10mと言ったところか。
「ラヴィ様とリサは木々と話が出来るのだな」
モフモフうさぎの隣に立って、リハクが呟く。
「どうする?」
モフモフうさぎがそう言った矢先に、復活の果実の樹に淡い桃色の花が咲き始めた。大ぶりの枝から吊り下がるようなラッパ型の花から、強く甘い香りが漂う。
リサがラヴィと手を繋いで、もう片方の手を樹の幹に当てて目を閉じていた。
花の時間はあっという間に過ぎ去り、花弁が落ちた小さな膨らみは、風船のように果実となって膨らんで行く。半透明のはち切れそうな果実には薄く白い粉がふいて、触れればその重みで落ちてしまいそうだった。
「出来たみたい」
リサが目を開けて、顔のすぐ近くに垂れ下がった果実に触れた。弾むようにリサの指を押し返す果実。リサが指についた粉をペロリと舐めた。
「ふわっ」
「フワッ? 甘いのリサ」
「甘いニャン、とっても甘いミャウ」
魂の抜けた顔で果実を見つめるリサが、果実に両手を伸ばした。
「私の顔より大きい! プニュプニュ……えいっ」
プルンっと果実の表面が波打って枝から外れた。満面の笑みで果実を抱えてリサが振り返った。
「虹色? 桃色? ゼリーみたいに透明な……実だな」
「うさぎにはあげたくないの。だってうさぎは甘いのは嫌いなんでしょう、リサは甘いのが大好きなの」
「その粉って美味しかったのか?」
「とても」
愛おしい眼差しで果実を見つめるリサ、顔を近づけて行き……食べた。
「ふぐっ!」
リサにかじられたみずみずしい果実の断面から、鼻から脳に染みるかのような芳醇な甘い香りが広がった。
「「リサっ」」
甘い香りにつられたのか、ラヴィとリハクが果実を持ったリサのそばに寄った。言葉にならない美味、リサが体感している味の感動は見ているだけで伝わって来ていた。
復活の果実は、樹にいくつも実っている。
「あれは?」
「このまま残す。必要なのは1つだけ、あとはここに訪れた人の分だ」
リハクが届きそうな果実を見て言った言葉に、ラヴィが返した。
「リサ、俺にもひと口くれよっ。というかみんなにもひと口分けろっ!」
「うさぎはうるさいの。もう、しょうがないわね」
なぜか嬉しい様子で、ポーチからナイフとフォークを取り出したリサが、果実の上の方を小さく切り分けた。そのうちの1つをフォークの先に刺して取り出すと、
「はいローズ」
「はいリハク」
「はいうさぎ」
小さく角に切られたゼリーのような弾力の果実は、プルプルと震え今にもフォークから抜けてしまいそうである。
「俺の分って、ちっちゃくないか?」
「いいから。黙って味わって、うさぎ」
それぞれが期待を胸に、果実を口に含んだ。脳まで染みる衝撃の旨さは、3人から言葉を奪ったのだった。