表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/467

21 果実を実らせて

ガラオロス山の冒険 ep.21

「あっ、確かスワンに種を採って来いって言われてたよね。このクエストの目的って復活の果実の種を手に入れるってのだし」


 それを聞いてリサが樹と話を始めた。ラヴィもそれに加わる。


「つまり、復活の果実はまだ実って無いって事なのね」


「だよなぁ。緑の葉が生い茂ってはいるけど、どこにも実がなってないし」

 

 ラヴィとリサと樹の会話の中身は、ラヴィ達の相づちから想像するしか無い。


「じゃあこの樹が復活の果実の樹で間違い無いって事かな?」


 モフモフうさぎが腰に手を当てて樹を見上げて言った。

 ── 樹高は10mと言ったところか。


「ラヴィ様とリサは木々と話が出来るのだな」


 モフモフうさぎの隣に立って、リハクが呟く。


「どうする?」


 モフモフうさぎがそう言った矢先に、復活の果実の樹に淡い桃色の花が咲き始めた。大ぶりの枝から吊り下がるようなラッパ型の花から、強く甘い香りが漂う。


 リサがラヴィと手を繋いで、もう片方の手を樹の幹に当てて目を閉じていた。


 花の時間はあっという間に過ぎ去り、花弁が落ちた小さな膨らみは、風船のように果実となって膨らんで行く。半透明のはち切れそうな果実には薄く白い粉がふいて、触れればその重みで落ちてしまいそうだった。


「出来たみたい」


 リサが目を開けて、顔のすぐ近くに垂れ下がった果実に触れた。弾むようにリサの指を押し返す果実。リサが指についた粉をペロリと舐めた。


「ふわっ」


「フワッ? 甘いのリサ」


「甘いニャン、とっても甘いミャウ」


 魂の抜けた顔で果実を見つめるリサが、果実に両手を伸ばした。


「私の顔より大きい! プニュプニュ……えいっ」


 プルンっと果実の表面が波打って枝から外れた。満面の笑みで果実を抱えてリサが振り返った。


「虹色? 桃色? ゼリーみたいに透明な……実だな」


「うさぎにはあげたくないの。だってうさぎは甘いのは嫌いなんでしょう、リサは甘いのが大好きなの」


「その粉って美味しかったのか?」


「とても」


 愛おしい眼差しで果実を見つめるリサ、顔を近づけて行き……食べた。


「ふぐっ!」


 リサにかじられたみずみずしい果実の断面から、鼻から脳に染みるかのような芳醇な甘い香りが広がった。


「「リサっ」」


 甘い香りにつられたのか、ラヴィとリハクが果実を持ったリサのそばに寄った。言葉にならない美味、リサが体感している味の感動は見ているだけで伝わって来ていた。


 復活の果実は、樹にいくつも実っている。


「あれは?」


「このまま残す。必要なのは1つだけ、あとはここに訪れた人の分だ」


 リハクが届きそうな果実を見て言った言葉に、ラヴィが返した。


「リサ、俺にもひと口くれよっ。というかみんなにもひと口分けろっ!」


「うさぎはうるさいの。もう、しょうがないわね」


 なぜか嬉しい様子で、ポーチからナイフとフォークを取り出したリサが、果実の上の方を小さく切り分けた。そのうちの1つをフォークの先に刺して取り出すと、


「はいローズ」


「はいリハク」


「はいうさぎ」


 小さく角に切られたゼリーのような弾力の果実は、プルプルと震え今にもフォークから抜けてしまいそうである。


「俺の分って、ちっちゃくないか?」


「いいから。黙って味わって、うさぎ」


 それぞれが期待を胸に、果実を口に含んだ。脳まで染みる衝撃の旨さは、3人から言葉を奪ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ