7 吹き荒れるドラゴンブレス
ガラオロス山の冒険 ep.6
「ローズぅ、赤い竜がこっちを見たの。しかもローズの事をちょっとだけリサよりも長く見てたの」
リサがラヴィの肩にしがみついて、耳元で囁いた。2人が避難しているドームの奥には通路が伸びていて、そのまま奥の方に逃げてしまう事も出来る。だがラヴィもリサもその気は全く無かった。
「あっ、モフモフさんが帰って来た」
紅竜とラヴィ達の間に空から降りてきたモフモフうさぎの両手のライジングサンは、太陽光を吸い込んだのか、ギラギラとにじり出るような眩い光を放っている。
「改めて自己紹介から始めようか紅竜よ。我はライジングサン、竜と舞うのは剣士の誉れ、我と一曲手合わせ願いたい。竜舞曲の調べで炎が踊り、雷光が揺らぐのもまた一興。行くぞ紅竜、我はライジングサン、闇を統べる者とは我の事よ」
モフモフうさぎが紅竜に向かって、剣士としての決闘を一方的に宣言した、その姿は凛。
「うさぎって」
「どうした?」
「ちょっとだけカッコいいんだ」
「何を今更っ。それだけじゃ無いしね」
リサの脳裏にはロゼッタの姿があった。ロゼッタがなぜモフモフうさぎを選んだのかをリサが聞いても、ロゼッタは笑うだけで教えてくれなかった。ただ目の前に立つモフモフうさぎを見て、ローズの肩を掴む手の力が強くなる。
紅竜リハクは人の言葉を理解する事が出来ていた。自分が何故そうなのかという疑問も抱いている。しかしそんな事よりも先に目の前の " 剣を持つ人間? " は、自分と闘うつもりのようだ。
( 勿論受けて立とう。ここは自分の寝ぐら…… 寝ぐらなどと下賤な表現では無い。なんと言えばいいのだ? 分からんがまあ良い。人間と初めて出会ったのだ、軽くあしらってやれば良い。いや、ここから逃げられないようにしてしまえ。そうすれば、これから1人で退屈な時間を持て余す事も無くなる! ならば、こやつを殺さぬよう手加減してやらねばならんな )
モフモフうさぎが左手のライジングサンを紅竜コハクに向けた。
「いざ参るっ」
モフモフうさぎが右の剣を横に軽く一振りして見せた。聖堂の右側に立つ白い柱が、中程から折れて床の端に当たった後に、下に落ちて行った。
グルルッ・・・ ブゥバァァァァ
それを見た紅竜コハクがモフモフうさぎに向かって、すぐさまブレスを吐きかける。
ドラゴンブレスは、魔炎。魔力を纏った炎の波がモフモフうさぎに押し寄せた。両手の剣で炎を切り裂き背後へ飛びのくモフモフうさぎ。ドームの前まで飛び退いてきて、前を向いたまま叫んだ。
「ラヴィちゃん、リサは任せたっ。少し暑いけどなんとかしといてくれ。流石に正面に突っ立ってやるのは無理っぽい」
「わかった! 暑いどころか超熱いわっ。こっちはリサとなんとかしてみるっ頑張ってねー、モフモフさんっ」
切り裂かれた魔炎が退いていく。息を吸い込んで再び炎を吐くつもりか、紅竜が四肢を踏ん張って狙いを定める。
ブォアァァァァァァァァァァァァァァ
ラヴィとリサが隠れるドームの入り口に植物の蔦が絡み合うように伸びて、葉を広げ幾重にも重なった。緑のバリケードは更に厚みを増して行く。隙間なく緑で埋め尽くされたドームの入り口の前に、モフモフうさぎの姿は既に無かった。
紅竜コハクの目には、ドームの入り口が植物でいきなり埋め尽くされて、自分の吐いた炎がそれを焼く光景。しかも焼け焦げて朽ちるそばから再生していく…… まるで植物が生きているかのように、黒く焦げた葉が押し出されて緑が復活する様は、見ていて鮮やかでそれだけで何かを感じずにはいられなかった。
「よそ見すんなよって、おらよっ」
空から稲妻が降ってくる。稲妻はモフモフうさぎ、双剣を無防備な紅竜コハクの頭に叩きつけようとした。
ブォゥアッ
炎を纏った翼がモフモフうさぎを横から弾き飛ばし、素早く体を回して紅竜コハクがモフモフうさぎを追う。弾き飛ばされたモフモフうさぎは空中をジグザグに蹴り飛ばし、慣性の法則を無視した動きで紅竜を翻弄する。
「光刃乱舞」
光の刃が立て続けに紅竜に向かって飛ぶ。光の速さを目で追う事が出来る者は居ない。光の刃が次々と紅竜の胴体に突き刺さった。
ブォンッ・・・ ヒュィィィィー
炎が燃え上がり急激に上昇した熱で膨張した空気の塊が、聖堂の柱の間で切れて耳に突き刺さる高音を奏でる。
傷ついたはずの紅竜の体が再生していた。
トンッ
モフモフうさぎが再び紅竜の前に降り立った。
「凄えな、やっぱドラゴンはこうでなくちゃな。本来は人間ごときにやられる存在じゃ無いんだ。俺の名前はモフモフうさぎ、そしてこの剣の名前がライジングサンだ。お前が本気のカケラも出してないのは分かる、俺もそれは同じだ。どうする? 場所を変えてガチでやるか?」