3 岩壁の点と線
ガラオロス山の冒険 ep.2
「ねえ、これ何?」
隙間なく組み上げられた床も、風化してゴツゴツしている。おそらく正方形のフロアだったと思われるこの場所はガラオロス天空神殿の入り口のはず。
リサが床から拾い上げたのは、エメラルドグリーンの涙型の宝石が通されたネックレスだった。
「この山に登ってて、初めてのアイテムだね」
「綺麗だけど、なんだか汚れてる」
「つけたりするなよリサ。どんな効力を持つアイテムかわからないんだからさ」
モフモフうさぎがリサがネックレスを拾った場所の周辺を見回しながら言った。
「それって何度もポップするアイテムなのかな?」
ラヴィ達が今行っているのは、今後一般ユーザーが行うクエストの下見と手直しである。
「モンスターを倒して手に入れるアイテムでは無い場合は、一点物だね。なのにそんな分かりやすいとこにあるって事は、敢えて見つけ易くしている場合が多い」
ラヴィが上を見上げて言った。神殿の底の部分が天井のようになっている。どうやって上に登るのか?
「そこの岩壁に彫られた模様と関係があるんじゃないか?」
星座のような模様が刻まれたガラオロス山の頂上の岩肌が、3人の目の前に広がる。人の手によって鏡面に仕上げられた一枚岩の色は、黒っぽく所々に白く濁った部分があった。
モフモフうさぎが、3人の姿とその後ろの空を鏡のように反射している岩に近づき表面に手で触れた。
「やっぱ穴とか線が刻まれているぜ」
「もう分かったかも」
「んっ? 何がラヴィちゃん」
「だってさ、モフモフさんが今手を置いている所から右上に向かって線が延びているんだけど、そのまま線をなぞってみてくれる?」
「わかった」
モフモフうさぎが溝に指を突っ込んでそのまま右上に動かして行く。
「次の穴に着いたぞ」
「うん、そのまま進んでっ」
離れて見ているラヴィには何かが見えている。岩の前に立つモフモフうさぎには、いくつもある線や穴が見えていて、よくわからなかった。
「ローズ、このネックレスって」
「うん、次だろうね」
モフモフうさぎの指が、次の穴に辿り着いた。
「おっ、ラヴィちゃん、この穴形が丸じゃないし深いぞ」
そう言ってモフモフうさぎが振り向いて、リサの手にあるネックレスの宝石と穴の形を見比べた。先細りの穴にはまりそうな宝石の形状……
「モフモフさん、こっちに来てみて」
「ああ、なるほど。そういう風に見ればそういう事か」
「何が? ねえ、何がそう言う事なの? リサにはわからないの、謎なの。 2人だけ解ってリサちょっと悔しいし、黒うさぎがわかるなんて屈辱なの」
沢山ある線と穴、その中で一部に注目すると見えてくる。
「さそり座だよな、ラヴィちゃん」
「うん、それであの穴がアンタレス。リサ、それをあの穴にはめてみて」
「やだっ、うさぎがやって。リサはこっちに居るもん」
モフモフうさぎにネックレスを押し付けて、自分はラヴィにくっつくリサ。
「じゃあ俺がやるよ、行くぞっ」
モフモフうさぎがさそり座のアンタレスの位置にネックレスの宝石を尖った方から差し込んだ。
コトリッ
留め金が外れるような小さな音がして、緑色だった宝石が色を変えてオレンジがかった赤色に輝きだした。その光が線を伝ってさそり座を浮かび上がらせる。15個の星が光を帯びた瞬間に 巨大なサソリが浮かび上がって見えた。