152 怒りの巴御前
「ざけんじゃねーぞ、このクソサド野郎っ」
ドスの効いた女の声が、シーサイド アベニューに響いた。TAKAが声のした方を見ると、巴御前を先頭に夜の豹のメンバーが屋敷から出て来ているところだった。
「危ねえな姉ちゃん、サドって何だ、サドって?」
「おめぇの事だよっ、どエロがっ」
「はっ! 何のこと」
「つっ、クソ。死ねぇぇ」
再び巴御前が矢を放った。素早い、間を空けずに連射してくる。彼女が持つ弓は魔法弓の " 日向 " 、矢が尽きる心配が無い。
「よっよっよっよっ」
軽い掛け声と共に、TAKA人形が巴御前の放つ矢を手で受け止めていく。
「ちょっと、当たりなさいよっ。何、あいつぅ」
悔しそうに言う巴御前。
「おい、先生。 あんた何か巴にしたのか?」
明らかに巴がおかしい。あそこまで怒るなんて普通じゃない、TAKAが目の前で矢を束ねて持つTAKA人形に声を掛けた。
「いやいやいやいや、本当に何もしてないよっ。ほんとだよっ、あいつおかしいぜ」
「聞こえてんのよ、ボケっ。お前が私に何をしたか言うたろかっ?」
「おうおう言ってみろよ、俺みたいなジェントルマンが何でサドなんだよ。人違いだろ」
「超ムカつくっ」
屋敷の玄関先の階段を降りてきて、黒髪のエルフの女性、巴御前はジリジリとTAKA人形の背後に回り込むように立ち位置を変えていく。
「さりげないね、姉ちゃん」
「お前だってな、さりげなく私の胸に触ってきたりお尻を撫でてみたりほっぺに触れてみたり、うぅっ、悔しい」
否定しようとしたTAKA人形、つまりモフモフうさぎに内線が入った。
《今、その小娘は何て言ったの? 》
《へっ……》
《後で詳しく聞くわ。続けていいわよ……》
氷のような冷たい声だった。
「おめぇ何てことしてくれんだっ、冤罪もいいとこだぞっ。俺がやった事は、連れてこられたお前を椅子に座らせて体を縛って……確かに嫌がるお前を押さえつけるときに少し体に触れたが、それは不可抗力だろ」
「ほら、認めたぁ。 有罪、触ってんじゃん。エロそうな顔してから、顔にも触れたし。縛るのに関係ないでしょ。あいつキスするつもりだったんだよ」
「してねえしっ! 何だよその話。盛るのもいい加減にしろっ」
「顔に手で触れたじゃんっ」
「お前の髪がロープに挟まったんだよぉ、髪が痛むだろうが。だから、だから手を髪の下に入れてさ、ロープの下から髪を抜いてあげただけじゃないか」
「そうなのか」
TAKAが納得したように言った。
「あの目は私の唇を狙ってたの、手を伸ばしてきたじゃんっ。TAKAは騙されてんじゃないのっ」
「口に髪の毛が入ってたじゃねぇかっ、お前の両手を縛ってるから取ってあげないと、いかんだろっ」
「あー言えばこう言う。本当、言い訳ばっかり」
「俺も腹が立ってきた、被害妄想の塊がどんどん話を作りやがって。作り話ばっかりしてんじゃねえぞっ。頭きたっ、おめぇら全員お仕置きタイムだっ」
「開き直った、超ウケる。被害妄想じゃねえんだよっ、私は被害者なのっ。そこんとこ、よろしくっ」
1対5
TAKA人形 対 ギルド夜の豹の5人、聖騎士のナイトパンサー、同じく聖騎士のAZニャン、槍戦士のスタンガン、アサシンのTAKA、弓師であり、ちょっとだけ魔導士でもある巴御前。
TAKA人形を取り囲むように展開して、各の向きを構えている。
「まあ、どうせ殺るんだ。帰るのにはそれが1番早いしな。先に言っておく、おめでとう!」
「何がだ?」
ナイトパンサーが双剣から、魔法剣 " 時雨 "に持ち替えた。
「クエストクリアだよ。目的はそこの変態女を救い出すことだったろ。救い出せたんだからオッケーなんだよ。だからぁ、俺も手加減しなくても良くなったと」
" だよなぁ? " と、TAKA人形が誰かに向かって聞いている。
「オッケーだとよ。じゃあしばき倒したる。覚悟しろよ、なあTAKA」
なぜか同意を求められて困惑するTAKA。
「ギルマス、この人マジで強い。マスタークラスだ」
「師匠と呼べ、TAKA君。お前には悪いが全員教育的指導だ。特にお前なっ」
振り返ったTAKA人形の手に再び巴御前の矢があった。
「行儀も悪い女だ」