149 TAKA対TAKA人形
陽の差すシーサイド アベニューは石畳みで出来ていて、少し離れるとその陽気で人の姿が揺らぐ。
朧げに人の様に見えたはずの人影が、手や足に繋ぎ目のある木造の人形であるとわかったのは、後30m程に近づいた時だった。
「おいっ、オメー達。待たせたなぁ、あ、いや、待ったぞ〜」
人形の口がパクパク動いて声がする。
「やる気満々だなっ、いい事だ」
「お前は何だ?」
ナイトパンサーが両手に剣を構えて威嚇するように言った。
「珍しい、双剣使いか。お前踊れんのか?」
双剣の戦いは舞。その戦いを見た者はそれを剣舞と呼ぶ。人形は自分が何かを答えない。
「無駄口が多いな。何か隠しているのか? それとも時間稼ぎか」
スタンガンが、槍の " 立花 " を人形に向けて言った。
「ぢげーよ、お前らちょっとばかし楽してんじゃねーか? ここらで腕試しでもしていけよ、じゃないとみてる奴らも納得しねえと思うぜ」
ギルド夜の豹のクエストチャレンジは、お披露目会場のスクリーンで、この瞬間も放映されている。
「それは我々も感じていた事だ。ならば問おう、先に進むためにはどうすれば良いのだ?」
「そうだなぁ、俺を倒すのはどだい無理な事だし生き残ればいい、取り敢えずそれだ」
「巴が居るのはそこの屋敷の中か?」
「そうだよ」
「俺たちがもしも死んだら、巴はどうなる?」
「さぁ、俺は知らないな。なんなら見に行ったらいいじゃないか? 誰かをここに残してよっ」
人形が玄関の破壊された屋敷を指で指して言った。
「どうせ1人ずつ相手をしてやろうと思ってた所だ。TAKA、お前残れ。ダークエルフの戦いを見せてやるから。他のは巴の姉ちゃんを連れて来いよ。じゃあ始めようかっ、行くぜTAKA」
そう言った人形の姿が突然変化した。いきなり現れたのはTAKA、TAKAのコピーだった。
「俺に構わず先に行けっ、俺はこいつをしばいたるから」
「言うねぇ、にいちゃん、悪いけどお前のダガーを2つ貸してくれよ」
「アホかっ、誰が敵に武器を貸すんだ? 欲しければ奪ってみせろよ」
TAKAが持つダガーは、 " 眠り火 " という名の魔法武器。 攻撃が当たれば敵を眠らせてしまう効果を持つという。
「けちくさ〜、そいつ減らないんだろっ。くれてもいいじゃん」
ナイトパンサーとAZニャン、スタンガンが2人を遠巻きに見ながら屋敷の方へと進む。
「早く帰って来いよ〜、時間があったらお前らの相手もしてやんからよっ」
「チッ」
よそ見をしたTAKA人形の眉間を狙って、TAKAが眠り火を放った。距離は10mも無い。一撃必殺、当てたと思った……
「残念、取り敢えず1本ありがとさんっ」
よそ見をしていながら、右手の人差し指と中指で眠り火の刀身を挟んで止めたTAKA人形が言った。
「これをホルスターに1回納めて、と……おっ、1本増えた!」
TAKA人形がホルスターに1度納めた眠り火を抜くと、抜いた場所に眠り火が現れていた。
「もういいぞ、くれなくても。そして今度はこっちの番だよなぁ、目をかっぽじって見とけよー、行くぞっ」
TAKAの目の前の空気が揺らいだ。重い空気の塊を一瞬喰らった様な感覚。次の瞬間TAKAが見たのは、自分を取り囲むTAKA、いや、TAKA人形だった。
「分身!? 」