147 さよなら、ロイ・クラウン
「聞こえないわ、金髪のボクちゃん。じゃあ、そこから飛んでっ」
「はいっ?」
「ここのクエストの1つだったの。勇気を見せなさい、次のフィールドに行く為に必要な事なの」
ロイの窓枠を握った手が固まって動かない。
「どうして僕なんですか?」
「1番勇気がありそうじゃない。 あなたが飛べば他の皆を連れて行ってあげる」
「じゃあ僕は?」
ロゼッタの下から風が吹き上がった。
「ここは風が強いの、早く終わらせなさい」
「ここから落ちたらロイはどうなってしまうんだっ」
ナイトパンサーが風の中で叫んだ。
「勇気の他にもう1つ必要な物があるわ。それはだ・か……い・・」
ロゼッタの小さな声が風に掻き消される。
「飛べない鳥は鳥かごの中で可愛らしく鳴けば良いわ。鳥かごの扉は開いているの、それに気づかないでいつまでも中に残ると言うのは自分勝手よ。外に飛び出せって言っているの。自由をあげるから後は自分で羽ばたけって、そこまでやってあげてるの」
乱れた髪を整えてから、ロゼッタが美しく笑った。
「意地悪でしょ? 私」
返事を求められているのか? なんと答えれば良いのか夜の豹のメンバー達はわからない。" 意地悪だ " と答えれば、" そうね " と言って、今より状況を悪くしそうだし、" そうじゃない " と答えれば、" 嘘つきは許さない " などと言い出しそうで……
「無視するのね」
(いや、それならあなたのほうがよっぽど無視するじゃないか)
「えっ…… う〜ん、わかったわ。仕方ないのね」
いきなり誰かと話しをしていた様子のロゼッタがこちらを向いて言った。
「ごめんなさい、たった今怒られたの。お前は優しすぎだって。急げって言われたし、少し辛い。だってお前達にこれから凄く酷い事をしなければならなくなったんだもの。ロイのせいよ」
ロゼッタに名前で呼ばれて顔を上げたロイ。
「僕はバンジージャンプなんて出来ないよ。高いところが苦手で……ウゲェ」
緊張し過ぎて吐きそうになったロイが、口を押さえた。
「俺が代わりに飛ぶ。それでいいか?」
ナイトパンサーが言った。
「バンジージャンプって言ったわね、違うわよ。命綱なんて無いの、飛び降りるのよ。そして落ちて行くの」
「ロゼッタ姫、もう一度言う。俺がロイの代わりに飛ぶ」
「死ぬわよ」
(やっぱり死ぬんじゃないか)
ロイが首を横に振った。
「私が連れて行くのは、スーイサイドアベニュー。意味が分かるかしら?」
「スーイサイドって自殺……」
今まで黙っていたAZニャンが口を開いた。
「次に進む為に必要な要素なの。ネタバレするとこのクエストは2度と使えないから言いたくなかったけれど、お披露目会場で沢山の人が観ているからもういいわね……そうよ、誰かが犠牲になる事が次へのキーになるの」
「じゃあ誰でも良いのか?」
ロゼッタが返事をせずに首を横に振った。
「卑怯者が残らなければならないの。正直で、優しくて、誰かの為に頑張れる人が選ばれるの。それがロイ、あなたよ」
「えぇぇ、足が固まって、う、動かない」
「私も飛んであげる、だから勇気を出してっ! さあっ、行くわよ」
ロイがロゼッタを見た。両手を差し伸べて満面の笑みでロイを見つめていた。
(あなたとなら、行けるっ)
導かれるままに、ロイは窓枠から手を離し足をベランダから踏み出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
ロイの絶叫が断崖絶壁に反射して消えていく。
「やっと落ちたわね」
下を覗き込んで、豆粒の小ささになって行くロイを見ながらロゼッタが言った。
「一緒に飛ぶって言ったじゃないかっ! なんでそこに居るんだっ!」
嬉しそうに言ったロゼッタに向かってナイトパンサーが叫んだ。
「あはははは、一緒に飛ぶなんていつ言ったかしら」
「だってさっき……」
「飛ぶのはお前達と一緒に飛ぶの。私も飛ぶとはそういう事よ。金髪のボクちゃんは勘違いをしたってわけね。 さぁ、私達も行きましょう。彼の犠牲を無駄にする訳にはいかないわ、今ならシーサイドアベニューに直接行けるのよっ」
「ギルマスっ!」 スタンガン
「ギルマスっ」 AZニャン
こんな時に相談していたガルフがここには居ない。
「ちっ、騙しやがって。許さねえ」
ロイと仲の良かったTAKAがいきなりロゼッタに向かって飛んだ。
「あははははははっ」
楽しそうに笑いながらロゼッタが手を振った。ベランダに残っていたナイトパンサーと、AZニャン、スタンガンの体が見えない糸で引っ張られた。
ロゼッタに向かって空中に飛んだTAKAも、途中で見えない力によって飛ぶ方向を地面の方へ変えられて、ロイを追うように地面に向かって落とされた。
4人の男達の出す悲鳴と絶叫を追うように、ロゼッタも宙に身を投げた。




