145 駆け足で進め
動かなくなった2体の仁王像の間を、夜の豹のメンバーは抜けて行く。その先には石階段があり、丸く角の取れた階段を作る石には、緑の苔が生えていた。
「ラヴィちゃんが自分達をNPCって呼ぶなって言った時」
滑らないように階段に足を乗せて、階段の先を見上げたTAKAが言った。
「人間って思っているみんなの心が傷つくって言ってたよね」
ロイがAZニャンの手を引きながら、ラヴィの顔を思い出した。
「あれがラヴィちゃんの、いやロゼッタやリサの、いやもっと他のNP・・みんなの心の中だとしたら」
「耐えられない」
ナイトパンサーの言葉にAZニャンが返した。
(そう言うことか、俺達はNPCの心の中を見たんだな)
「まるで禅寺のようだなぁ」
階段を登り終えて、白い砂利が敷き詰められた境内を眺めてスタンガンが言った。
「座禅でも組むか?」
TAKAがそう言いながら、本堂の方へと歩いて行く。
「地面がえぐれまくっているぞ」
「やっぱり誰かが先にここを通って行ったんだよ」
「と言うか、さっきラヴィちゃんはこっちの方から帰って来たんだし」
「でもラヴィちゃんは自分の事をクエストの一部だって言ってた」
ロイが地面に手をついて、そこについた跡をなぞっている。
「巨大な拳の跡です。おそらくですが、下に居た仁王像と同じ物でしょうね」
境内を見回しながらロイは言った。よく見ればいたる所で白い砂利が無くなっている場所があった。
「ここで行き止まりじゃないよな?」
本堂の奥を覗き込んでいたスタンガンが、槍でお堂の奥を指した。
「道があるぜっ」
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本来ならば、仁王像は金剛力士としてナイトパンサー達の前に立ちはだかったはずである。しかし今回のクエストはロゼッタの手に委ねられている。いくつもあるクエストのパターンの中から、1番簡単な物を用意したのは、手っ取り早く終わらせてくれと言う父親のスワンの指示があったからだった。
夜の豹のメンバー達は、ロゼッタの館の前に辿り着いていた。丘の切れ目に建っていると思った白い館は、実は崖の縁に建っている事が分かり、自分達がカルデラと呼ばれる外輪山の縁に居ることを知ったのだ。
「たぶんここに何かあるはずだよね……お堂の奥の岩扉を抜けたら、いきなり草原になって周りには何も無いからさ」
元気を取り戻したAZニャンが、白い館を見上げて言った。
「じゃあ行こうか」
ナイトパンサーがそう言って扉をノックした。
「我々は、アクエリアのギルド " 夜の豹 " と申します。どなたかいらっしゃれば、中に入ることをお許しください」
「ガチャ」
扉の鍵が開く音がした、そして中から女の声がした。
「急ぐのよ、さっさと2階に来なさい。連れて行くから」
ナイトパンサー達にも聞き覚えのある声だった。