144 それは幻影であって・・
真っ赤に焼けた隕石が降り注ぎ、灼熱の大地に立つ自分の視界は熱でボヤけ、鼓膜を破る衝撃波が再び襲って来る。ポッケに手を突っ込んでそばに現れた君は、ジャージの繋ぎを着ていて、後ろの方で " カオリちゃーんと呼ぶ声がして、ユキナが全体をグルグルへと変えて行く。フロデンは大統領補佐官だ。
「はっ」
今見ていたのは何だったのか? 首を振って目を覚ましたナイトパンサーは周りを見回した。
「みんなは?」
ナイトパンサーだけではなかった。焦点を失い、膝をついたAZニャン、耳を塞いだ状態のロイ、何かを避けようとしているTAKA、頭を抱えているスタンガンが居た。
「大丈夫か? みんなっ」
ナイトパンサーの声に、意識を取り戻すメンバー達。そして、そこにラヴィアンローズの姿はもう無かった。
「幻を見せたのか?」
まるで自分が見たのが現実のものでは無かった事を、他のメンバーに確認するかのように呟くナイトパンサーに、スタンガンが倒れ込んできた。
「スタンっ、どうした?」
「すまんっ、ギルマス。ちょっときつかったわ、ギルマスが呼んでくれなかったら俺帰って来れなかったかもしれない」
ヨロけた足で地面を何度か踏んで、槍を杖代わりに立ったスタンガンが他のメンバーの元に歩み寄った。
「スタンは何を見たんだ? 俺は……火の玉が降って来て、誰か知らない人が、人の名前を呼んでいて・」
「俺も見た、それと同じだ。紙が燃えるように人の姿が燃えていって、俺の足の先に火が移って変な声が何度も後ろから……耳を塞いだ時にギルマスの声が聞こえたんだ」
胸の鼓動が激しいままで、スタンガンがロイを、ナイトパンサーがTAKAとAZニャンを介抱する。幻から戻って来た他のメンバーもそれぞれが、説明しようのない恐怖の体験を受けていた。
「魂を削られるような感じでした」
ロイが言った。
「何度も何度も違う名前で誰かが呼んで来るんです。真っ赤な火の玉が周りに落ちてきて、動けなくて息も苦しくて……」
「俺と同じだよ、ロイ」
ナイトパンサーがTAKAに肩を貸しながら言った。もう片方の手はAZニャンの手を握っていた。
「今のはラヴィちゃんが僕たちに見せたの?」
ロイがAZニャンにヒールをかけた。この中で1番ダメージを受けているのはAZニャンのようだった。
「精神的なダメージなんで、ヒールが効くのか分かりませんけど一応みんなにもかけましょうか?」
「いや、いい」
「俺も大丈夫だ」
TAKAが口を開いた。
「今のが幻影だったのは間違いないな。俺達は全く耐性が無いことがわかった。ギルマスは自力で戻ったのか?」
「あぁ、なんとかね。確かにTAKAの言う通りだ。精神的な攻撃に対する防御アイテムでもあればいいんだけど、ただ今のはかなりのレベルの幻術魔法? だったと思う」
「そもそもラヴィちゃんはそんな魔法を使った素振りも見せなかった。でも、ここにラヴィちゃんは居ない」
TAKAが深呼吸して仁王像を見上げた。
「AZニャンは、戻ったか?」
「まだ足がふらつくっす。結構どぎつい体験でした……俺、身体を火の玉で撃ち抜かれて胸にポッカリと穴が空いたまま、呼ばれる声の方へ……よく覚えて無いっす」
「深呼吸しろAZニャン。心を鍛えないとな、みんな見たのは同じようだな。どのタイミングで魔法がかけられたのか……」
ナイトパンサーが先に進もうと、皆を促した。仁王像はラヴィが出した問題を考えているのか、微動だにしない。
ここに来て初めて風が吹いた。目の前の参道から吹き下ろす涼しい風に何の意味があるのだろう……