141 近くて遠い距離
花の回廊の終点は、緑と色とりどりの花が作り出したアーチ型のトンネルになっていて、そのトンネルの先に白い道が横切っているように見えた。
「カレーさんて呼ばれてたね。がるさん」
「あの堅物が、カレーさんとは。ガルさんはお披露目会に出た事が無かったよな」
「うん、あんな茶番劇は性に合わないって言ってたよ」
ロイとAZニャ、スタンガンがリサに捕まったガルフの話をしている。
「みんな、止まれっ」
ナイトパンサーの声は低かった。緑と花のアーチを抜けて直ぐ右側の生垣が真っ黒に焦げて丸い穴を空けている。火はもう消えていて、焼け焦げたのもたった今というわけではなさそうだったが……
「なんじゃこりゃ? エグいで、鉄柵の門がドロドロに溶けて変形してるやん」
TAKAが変形して恐らく高熱でドロドロに溶けたであろう鉄柵の門に手を触れながら言った。
「ここで戦いがあったのか? でもこのクエストでここに来たのは俺達が初めてのはずだけど」
「TAKA、退がって」
早口でロイが言った。危険を伴う口調に一瞬で花の回廊の方へ戻るTAKA。
地面が揺れた。明らかに人の歩む振動、しかしそれは人ではない、かなり大きな物だと思われた。
花の回廊から出ると左右に一本道が延びていて、その先はぼやけて見えない。しかし、道を挟んで反対側には門があって、その門は異様な光景になっていた。そして門の内側から、足音の主が姿を現した。
△▽ △▽ △▽
スワンは急いで画面を切り替えた、今はクオータービューの視点よりも臨場感のある、ロイの視線を映し出している。
いきなりスクリーンに映る映像が変わって、お披露目会場の観衆か何事かと注目した。そのほとんどは、リサとカレーさんを運営が映し出した物と思っていたのだが……ロイの震える声と映像が重なる。
「で、で、デカイですっ。 あいつがたぶん門を溶かした奴。し、しかも2体居るっ」
お披露目会場のスクリーンに映し出された2体の巨像、それは筋骨隆々な上半身裸の仁王像であった。門のそばまでやって来ると、高い背丈のせいでロイの視界では腰までしか見る事が出来なかった。
スワンがクオータービューに映像を切り替えた。スクリーンは、ドローンで斜め後方の上空から映し出したような映像に切り替わる。
門の中に生える竹林と、背の高さが同じぐらいの仁王像が映っていた。
「人が2人と、黒うさぎが2匹と白うさぎが1匹。何の用じゃ?」
仁王像が喋った。動くのだから、喋るのも当たり前だが。
「我々は、アクエリアのギルド " 夜の豹 " です。この先に居ると言われた私達の仲間を救うために、先に進みたいのですが、通していただけませんか?」
「我が名は【 阿 】、後ろに控えるのは弟者の【 吽 】ここを通りたければ、われらを満足させよ」
【 阿 】が拳を握りしめたのを見て、その大きさにどんな攻撃が効くのか考えを巡らすTAKA。門から出てこないのは、門の外は奴らの範囲外と考えて良いのだろうか? いや、隣の生垣が丸く焼け焦げている。だとしたら……
「具体的にどうすればそちらは満足するのだ?」
珍しくTAKAが喋った。
「満足とは?」
「満足とは何じゃ?」
「礼節かのう、足りとるか? 兄者」
「礼節とな? まあ、ぼちぼちじゃろうな。弟者」
「黒うさぎからやる気が見えるのぉ、兄者」
「ひとひねりしても良いのじゃな、弟者」
「踏み潰せばよかろうよ、兄者」
「ちょこまかと小賢しいぞ、黒うさぎは。弟者」
「素直にとんちと答えれば良いものを、兄者」
「そうじゃ、とんちじゃ。お主ら、ワシらが答えられぬ問いを言ってみよ。ワシらが考えている間は自由に通してやろう。どうじゃ、難しい問いを投げかけてみよっ」
皆がナイトパンサーの顔を見る。要するに奴らが答えられない問題を出して、奴らが考えている間は自由に通っても良いというわけだ。
「何かある?」
ロイの問いかけに皆が首を横に振った。
「急に言われても思いつかないよ。スタンは? じゃあAZニャンは?」
ナイトパンサーも頭をかく。問題を失敗すれば恐らく実力で突破するしかないのだろう。
「ささっ、遠慮は要らんぞ、さっと述べよ。ワシらは待つのも苦では無いがの……お主らは急ぐのであろう」
足の間をすり抜けて突破する。もしかしてエルフなら可能かもしれない、しかしヒューマンのAZニャンとナイトパンサーは動きの速さでエルフに劣ってしまう。ナイトパンサーはかなり速くなっているのだが、AZニャンはそこまで速くは無かった。
ジリジリと時間が過ぎ初めている。間合いを計ろうとTAKAが立ち位置を変えると、見透かしたかのように仁王像の 【 吽 】が、バチンッと両手を合わせて威嚇した。
と、その時
「あのさっ、問題を俺が出してもいいかな?俺も通りたいし、一緒の事だろっ」
仁王像の後ろから男の声がした。