134 マンソンの忠告
「うおっ、危ねえっ。何すんだよ、おぉい」
「てめえ、巴をどうした? 写真の血は誰のだっ? その血塗れの包丁と服は誰の血だっ?」
「そんな話をしに来たんじゃないんだけどなぁ、落ち着いて聞け。あのな……」
(そういやこれって大画面で放送中だったよな。お前たちがほぼ決まりだなんて俺が言ったらおかしいだろ)
「先に行ってろ、お前たちの実力があれば辿り着く筈だ」
そう言いながら、そっと地面に肉切り包丁を置くマッテオ人形。正面のTAKAだけでなく、左、右と夜の豹のメンバーは展開していて、気がつけばマッテオ人形の首元に魔法槍の " 立花 " が突きつけられていた。
「やべえな、お前ら」
「無駄口はたたくな、動けば斬るっ」
そう言ったのは、今は槍戦士のガルフ。大柄な体の気配を殺し、TAKAの放った眠り火に気を取られた隙にマッテオ人形に近づいたのだ。
「これは無駄口じゃないからな。斬るなよっ、絶対に斬るなよっ、なっ、手が滑ったとか言って……」
「それが無駄口と言うんだ……死にたいのか?」
(冗談が通じねぇ、こりゃ堅物だわっ)
「わかった、わかった、俺は丸腰だ。ちょっと伝言があってまた出てきたんだ。団長さん居る?」
首に立花を突きつけられているので、目だけ動かしてTAKA達の居る正面の集団を見るマッテオ人形。しかし、その中にナイトパンサーの姿は無い。左右に展開しているのは、ヒーラーのロイ・クラウンと弓を手にしたAZニャだ。
何処に居る?
「ここだっ」
ストンっと、マッテオ人形の頭上から降りてきたナイトパンサーが、マッテオ人形の首と腹にショートソードを押し付けて言った。両手剣を使っているという事は、彼は〈双剣〉のスキルを上げているという事だ。
霧の谷ストレイで見た、2本の龍剣を持った男。あれがゲームの中のキャラなのか、プレイヤーなのかは分からない。だが、極めればいつかは自分も天空からイカズチを降り注ぐような剣士になれる。そう信じて片手剣を使わなくなったナイトパンサーである。
彼もまた気配を殺し、扉の上に刺さったナイフを足場にしてマッテオ人形の頭上から狙っていたのだ。
「よう、団長。ちょっとだけ耳を貸せ、大きな声で言えないんだよ」
だんだん小さな声になっていくマッテオ人形。
「ふんっ、いいだろう。だが俺は団長では無いぞ、夜の豹のギルドマスターだ」
「騎士団は作らねえのか?」
「えっ?」
「まっ、その話はまた今度な。あのな……」
マッテオ人形が、お披露目会場で見ている観衆に聞こえないように小さな声でクエストクリアの件をナイトパンサーに話した。
「わかった、お前の話を信じようっ。お前は止めようとしたんだな、そして巴は拐われた。命からがら逃げてきたお前が俺達にその事を伝えに来た。誤解される事も構わずにな。疑って済まなかった、君の名は?」
「名前なんていいんだ、強いて言うなら肉屋の……マンソン。マンソンだ、切り刻むのは得意だぜっ」
「それがいらん事って言うんだが……」
側で2人の会話を聞いていたガルフがツッコミを入れた。彼もマッテオの話したクエストクリアの件を理解したので、槍を下ろしながら皆にマッテオ人形が害はない事を示した。
「どうする、行くのか?」
「勿論だっ、それが俺達、夜の豹〔ナイトパンサー〕だからな。また会えるのか?マンソン」
「ああ、アクエリアの肉のマッテオで働いているんだ。西の大通りにある本店に居るから、暇があったらみんなで来てくれっ。うちのステーキはうんまいぞっ」
「わかった、今度行くよ。そろそろ行かないと巴が待ってるしな。色々ありがとう」
武器を納めると、ギルド夜の豹は黒い扉を開けて次のクエストの場所、花の回廊へと足を踏み入れて行った。