133 マッテオの演技
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「おっと待ったぁっ、その扉を開ける前に話を聞いていけよっ」
黒い扉の前に立つ夜の豹のメンバーに向かって、左側の建物の1階の扉を開いて1人の男が出て来た。
そう、この男はマッテオが操作するクエスト専用の人形。人形といっても普通の人間の姿をしているのだが……
いきなり現れたマッテオ人形に驚き武器を構える夜の豹のメンバー達。
「いやいやいやいや、そのおっかない武器を仕舞えよ。話をする前に俺がやられたらまずいよな」
白い前掛けを真っ赤な血で染めて、幅広の肉切り包丁を片手に持ったマッテオ人形が、馴れ馴れしく話しながら近づいていく。
「それ以上近づくと、攻撃する。用は何だ?」
「あぁ、あれだ。ちょっと言いにくい事だけどな……さっき写真を拾っただろ。見ればわかるさ」
ナイトパンサーのメンバーが、今にも飛び道具を使いそうで後退りしながら答えたマッテオ人形。
夜の豹のギルドマスター、ナイトパンサーが写真を取り出して見てみる。
「巴?」
背後に居る巴御前に声をかけて、振り返った場所に巴御前は居なかった。ナイトパンサーの様子に気がついて他のメンバーも周りを見回す。
「さっきまで居たよ、後ろから来てたのに。なぁ、居たよなっ?」
「まぁ、頑張れよっ、今回は酷い事はしていないからなっ。じゃあな」
いつの間にか建物の扉に手を掛けたマッテオ人形が言った。
「待てっ、巴はどこだっ?」
「んっ、たぶんだけど、この先の先の先のシーサイドアベニュー……いや、スーイサイドアベニューだったっけ。まぁ、そんな名前の通りの古びた洋館の2階の奥の部屋に監禁されて居ると思うぜ。落とし穴に気をつけろよなっ」
肉切り包丁を軽く振って扉を開けてそのまま建物の中に消えたマッテオ人形。
《どうだっ? 完璧だったろ、俺の演技。さりげなくヒントまで与えるチョイ良い役を演じきったぜ!》
《お疲れ様マッテオ。演技は良かったんだが……実はだな、そもそもこんなに第1ステージを突破するギルドが少ないとは思わなかったのでね、時短の為に君の所をクリアしたらもういいかなと思っていたりしたんだけれど》
《まじか、早く言えよスワンっ。どうすんだよ、さらった女の子はもう移動してしまったぞっ》
《まあ、残りのギルドの結果次第だけど、他にクリアする所が出なかった場合はお終いにするよ。その時は君が女の子を迎えに行ってくれ》
《今クリアした連中に最後までやらせたらどうだ?》
《それは彼らに聞いてから決めるよ……というか君が聞いてきてくれ。じゃっ》
(おいおい、俺まだ残りのギルドのクエストを見なきゃならんのに、チッ)
「タンッ」
再び通りに出ようとしてマッテオ人形が開いた扉に、眠り火が突き刺さった。