131 主演ナイトパンサー
光の壁を目の前にして、ギルドのメンバー全員を止めたのはギルドマスターのナイトパンサーだ。
彼らギルド " 夜の豹 " も、食肉ギルド担当を狙ってクエストに挑戦していていた。
「みんな聞いてくれっ。たぶんこの光を抜けるとクエストが始まる、いきなり戦闘が起きているのは今までのギルドの終了時間を考えると間違いないと思う。だから、臨戦態勢を整えて行こう。全員防御魔法と、各種の補助魔法をかけ終えたら防御隊形をとって入るぞ」
その言葉を聞いたギルドメンバーは、各々の持つ属性の違う攻撃力アップのバフをかけあったり、聖騎士による防御魔法 " 聖の衣 " を全員にかけて行った。
暗い通路の中に、赤と黄色と青が混じり合ったオーラを纏う集団がいる。
斧戦士と、槍戦士、盾を持つ片手剣の剣士を最前列に立てて、魔剣士と聖騎士を中段、弓を扱うヒーラーと、遠隔魔法と弓を扱う魔弓師を後段に並べた、初っ端から弓が飛んできても対応出来る隊形をとっていた。
「中に入らなくても魔法が使えたのはラッキーだった。行くぜみんなっ、ナイトパンサー出撃だっ!」
光の壁を潜った先は、艶めいた石畳が続く小さな路地。左右の建物の1階は店のようでガラス張りの壁からは店の中が見えるようになっていた。
2階や3階は小さなベランダのついたアパートのようで、まるでイタリアの街角をそのまま持って来たような静かな……そう、人っ子1人居ない静まり返った街の中にナイトパンサー達は立っていた。
ヒラヒラと、一枚の写真が落ちて来て「チリンッ」 という、鍵が落ちた音と共にクエストが始まる。
背後に光の壁、写真には亡霊を100体全て倒して鍵を手に入れろと書いてあった。
アパートの窓や扉がバタンッ、バタンッと開いたり閉じたりして、見えない亡霊が出てきた事を教える。1階の扉も静かに開いて、姿を見せたのは街に居る人々と同じ服を着た顔の見えない亡霊達。見えないのではなく、姿が薄くなったり濃くなったりを繰り返していた。
「物理攻撃が当たるかわからん。巴、弓で上の方の奴を」
ナイトパンサーが指示を出す間に、初弾が近くの3階の窓から壁を伝って逆さまに降りて来ていた亡霊に突き刺ささった。その亡霊は弓が刺さったまま地面に落ちて消えた。
ナイトパンサーからの次の指示を待つまでもなく、今度は前衛に出たアサシンのTAKAが、魔法武器のダガー " 眠り火 " を、前から迫る亡霊達に放ち始めた。魔法のダガー " 眠り火 " の特徴は無限の数。両太腿に装備したダガーホルダーが空になる事が無いのだ。
湾曲した刀身を持つ一対のジャンビーヤであったはずのTAKAの " 眠り火 " は、TAKAの意思によってその姿を変える事が出来るようになっていた。
ベルクヴェルク偵察部隊から離脱した後に、ヒーラーのロイと討伐作戦から身を退いたTAKAの手元には、持っている人間が殆どいなくなった " 蛍火 " が残っている。今はその蛍火という短剣がダガーに進化した " 眠り火 " が彼の武器である。
ちなみにヒーラーのロイも同じく偵察部隊に所属した時に、" 眠り火 " を貰っているのだが、ヒーラーという職業柄、普段でも使う機会が少なかった。
「凄いわね、あたしの魔法弓 " 日向 " みたいじゃん。矢が減らないのと同じように、ダガーがいくら投げても減らないなんてさっ」
弓部隊にいた巴御前も、ロイとTAKAに言われてさっさと抜けた組だ。つまり、ナイトパンサーのメンバーは魔法の武器を失っていないのだった。
「僕もあれの原型の短剣、蛍火を持っているんです。だけど、ヒューマンのヒーラーの僕じゃ大して使いこなせませんでした。やっぱりこれはTAKAみたいなダークエルフのアサシン向きですよ……魔法杖 " 空蝉丸 " に交換してくれないかな」
ボヤキながらロイが周りの様子の変化に気を配っている。ギルドメンバーが揃っている今、攻撃での出番は無かった。
「フンッ、フンッ……」
TAKAが通りに向かって真っ直ぐ投げた眠り火は、重なり合うように押し寄せる亡霊を次々と倒していく。しかも撃ち漏らしが無いので、周りのメンバーは近くの扉から時折現れる亡霊を退治すれば良いだけだった。
あっと言う間であった。クエストフィールドに入ってから動く事も無く、迎撃での完全勝利。
最後の亡霊が地面に倒れた跡に、金色の鍵が落ちていた。それを拾ったナイトパンサーが前を見据えて言った。
「あの奥にある扉が次の試練への入り口だろう。時間勝負でもあると言ってた。全員、警戒を怠らずに急ぐぞっ」
△▽ △▽ △▽
お披露目会場は、まるで映画館の中のようだった。ナイトパンサーのメンバーの会話は、映画の出演者のセリフに聞こえ、その映画の主人公は間違い無くナイトパンサー……この、突出した戦闘集団を束ねるエリートである。
痛快で爽快。どうしようもない戦闘ばかり見せられてきた観客から割れんばかりの拍手と応援の声が画面に向かって送られたのは、すぐその後であった。