128 とあるギルドの青い光
2階や3階の窓から出て来た浮遊体が居た。ちゃんと1階のドアから出て来た亡霊も居る。
いきなり狭い路地という空間に亡霊が溢れた。
「敵は前方のみ。遠隔は後ろから頼む」
そう言ってギルマスを含む前衛が、各々の武器を手に横に広がりながら亡霊へ突撃を開始した。
中段を固める聖騎士が防御力アップのバフをかけていく。青い光に包まれた聖騎士が先頭に躍り出た。
剣士、斧戦士達は、それぞれの職業専用にある戦闘用の補助魔法をかけてから、亡霊に斬りかかって行った。
「いくぞおおお、どりゃあ」
大振りのダブルアックスを目の前に迫る3体の亡霊に、横殴りに振り抜いた斧戦士。亡霊は胴から切られてしまい何かを叫ぶような顔をしながら闇へと渦を巻いて消えていく。
ただ両手を広げて抱きついて来ようと迫る亡霊達。武器を持っているわけでもなく、近づいて来れば剣や槍、斧で簡単に斬り倒す事が出来た。
ある程度切り進んだ所で、ギルマスが号令をかけた。
「一旦退がれ、前と後ろの間が間延びしているっ」
その声を聞いて突き進んで居たエルフの剣士が、戻りながら新たに攻撃力アップの補助魔法をかけ直している。
「ギルマスッ、ちょろくねーか?」
「わかっている。だから慎重に行く。今どの位倒したのかな、40匹はいったか?」
前衛が退いていく。すると押されていた亡霊達が再び押し寄せて来る。それに向かって後方から矢が飛んで行く。
「運営がくれたあの " 日向 " っていう弓が残ってたらよかったんだけどな。矢の残数を気にしなくてよかったし」
後方から援護で矢を放つエルフのヒーラーが呟いた。彼はベルクヴェルクで押しつぶされて死んだ兵士の1人だ。日向はあの日ゴブリンが使った地龍退治の大槌というユニーク武器によって、街もろとも破壊されてしまっていた。
お披露目会場では、巨大スクリーンに映る映像が切り替わった所だ。部隊の後方からの視点、前衛が後ろに戻って来ている様子が映し出されている。
そして……
両側のアパートの3階の閉じていた窓が、そっと開いて何かが出て来た所も。
「上、上、上に来てるぞぉぉ」
「上見らんかぁっ」
明らかに何かが窓を開いた、しかし薄っすらとしか姿が見えない。そしてそれは聖騎士の防御魔法 " 聖の衣 " の青い光がついていない斧戦士と剣士の上に飛びかかった。
「あっ」
弓を放っていたヒーラーがそれに気づいたが、飛びついた亡霊の姿が消えた、というより飛びつかれた斧戦士と剣士の体に吸い込まれた様に見えたのだ。
そして次の瞬間、剣士と斧戦士は隣に居たダークエルフの槍戦士と、片手剣の聖騎士を斬り倒した。
斧戦士のダブルアックスは、簡単に片手剣の聖騎士の首をはね、剣士の袈裟斬りで槍戦士は血を吹き出しながら倒れ込んだ。
「逃げてぇぇ、亡霊に取り憑かれてるっ。こいつら憑依してくる」
後方から一部始終を見ていた、ヒーラーのエルフが叫んだ。
抱きつくように迫る亡霊の攻撃方法が分からず、簡単に倒せるモブと思って油断した所での、憑依。
聖騎士の " 聖の衣 " というバフがついていないメンバーを狙ってきた事に、現場に居るギルド、スカルヘッドのメンバーはまだ気がついていなかった。
お披露目会場では怒号が鳴り響いていた。
「聖魔法で引き剥がせよっ、つーか聖騎士がやられたら詰みだぜっ」
「やばいやばいやばい、いきなり同士討ちとかやばすぎる」
「触れたらアウトって事だよな。ちゅーかうちのギルド、聖騎士が居ないんですけど」
「あーあー、ギルマスが囲まれてる。あーもう駄目だ……」
例え聖騎士の青い光で守られていたとしても、憑依された仲間からの攻撃は、武器を使った物理攻撃で武器対武器の実力勝負。憑依されたメンバーからの容赦の無い攻撃にたじろいだ前衛のメンバーが防戦一方となり、その間に前衛をすり抜けた亡霊達が後方に残っていた聖騎士や弓師のヒーラーに大量に迫って来た。
魔法を唱えるには詠唱のための時間が必要である。もはや後方に居た聖騎士にその余裕は無く、手にした剣で亡霊を斬り倒していくしか無かった。
徐々に後ずさりしていく1人の聖騎士の足に何かが当たった。足をずらすとそこにはヒーラーの死体が転がっていた。背後の誰かも憑依されたという事だ……
振り返りざま聖騎士は剣を振るうと、小さな剣でまさに斬りかかろうとしていたもう1人のヒーラーを斬り倒してしまう。
「ごめんっ、当たっちまった」
剣を周りに振りながら亡霊達を牽制している聖騎士。" 聖の衣 " も、もうすぐ効果が切れてしまう。それよりも先に、前方から憑依された血だらけの斧戦士や剣士達が向かって来るのが見えた。
「まじかよっ、最悪だっ」
その言葉が、ギルド " スカルヘッド " の最後の言葉になった。
【スカルヘッド : 幻の街角の亡霊退治クエスト 失敗】
お披露目会場の巨大スクリーンに、亡霊で溢れる街の通りをバックに文字が浮かんで来たのは、すぐその後だった。