125 食肉ギルド " クレアス "
「さて、そろそろいいかな? 俺が話してもいいかなぁぁぁ」
ピタリとタイミングを合わせてドラムが盛り上げる。
「ターンッ」
見事に聴衆の注意を惹きつけた鼓笛隊が、マッテオに注目を引き継ぐ素晴らしい連携を見せた。会場はマッテオの次の言葉を待つ。
「じゃあ今から肉屋ギルド、正式な名前で言うと、クレアスって名前なんだが、担当するギルドを決めようと思う。
こう言う事はスピードが命だ。肉も鮮度が命、熟成する前の下処理も手際が良い方がいい。だから、今決めるって言ったら今決める。ここに居ない奴は残念だったって事で。
あっ、あとな、さっき報酬の話はしたけど、義務の話はしてなかったな。当然だけど担当ギルドになったらやらなきゃいけない仕事があって、それには責任も伴う。
だから、言い方は悪いがお子ちゃまギルドには任せないぞ。そう言う奴は自分達から辞退してくれ」
要点が掴めない観客と、ちゃんと話が掴めている観客の区別がつかない。ガヤガヤしているだけの観客席に向かってマッテオが叫ぶ。
「いいかぁぁぁ、金を貰うにはやるべき事をちゃんとやる義務があるって言ってんだ。仕事もしねえし、適当な事しか出来ない奴が、権利だけ主張する事は許さんって言ったんだ。わかったかぁぁぁ」
「だからぁぁぁぁ、仕事って何なんだぁぁぁ」
観客席からヤジが飛んで来た。そっちの方にマッテオは手を挙げて、聞こえたと合図をした。
「なってから教える、じゃあ卑怯か。冗談冗談、あのな、肉ギルドの仕事ってのは、狩場の管理だ。
アクエリア周辺の野生の動物を狩って来るのは誰でもやってる事だろ。だけどいくら定期的に動物が増えるっていっても限度がある。
人気の狩場がどうなっているか知ってるか? 人数の多いギルドが占領状態だろ、一般の人間には手が出せないし、それが元でPKが起きている。
具体的な場所は決まったギルドに詳しく教えるが、やる事は現場を仕切るって事だ。常駐しろってまでは言わないが、定期的に巡回してもらうし問題が起きれば解決してもらう。
その為の権限も持たせるし、何よりクレアス担当ギルドの紋章が頭の上に表示されるようになる。いわば狩猟管理官になってもらうみたいなもんだ」
マッテオが指をパチンッと鳴らした。
マッテオの頭の上に、マッテオの顔と同じぐらいの大きさのクレアスの紋章が浮かび上がった。微妙に位置が右上にずれている感じだ。
もう一度マッテオが指を鳴らした。するとずれて空いた空間、左下側にクレアスの紋章と同じ大きさの別の紋章が現れた。2つの紋章に15秒に1度光が当たったように光沢が現れる。
「みんな見えてると思うが……」
マッテオが頭上のモニターに映る自分の姿を確認して話を続ける。
「俺の右上の紋章、銀と緑と赤だな、これがクレアスの紋章だ。じゃあ左下の方は何かと言うと……
そうだっ、みんなもう分かってるみたいだな。担当ギルドの紋章だっ。今日からギルドに紋章がつけられるようになったぜ、というか、たった今からだ。
ちなみに、今見せている紋章はマッテオ商会の商標だ。カッコいいからって真似したらダメだからなぁ」
ギルドの紋章システムは、マッテオの言葉と同時に実装された。デザインは各ギルドで自由に作成する事が出来るし、その為のパレットもギルド専用ボードに追加された。
「うぉぉぉぉ、キタァァァァ」
「遅えぞぉぉぁ」
「クックックック、いちいち反応が良いね。頑張ってカッコいい紋章を作ってくれや。それでは、本題と行こうか。クレアスの紋章を背負いたいギルドのメンバーよ、全員出て来いやっ!」
よく見りゃマッテオの衣装も、銀色の髑髏を、あしらった黒い杖もどこか●●●●●総統を思わせる出で立ちで……
アクエリアの食肉協会の会長マッテオの事を、誰もがマッテオ総統と呼ぶようになったのは、これがキッカケであった。