23 ラヴィ&ロビー
ズバァッ
ラヴィアンローズがNPC(GMカル)を斬った。
ズサササササッ、「キランッ」
片膝を着いて切り抜けて行ったラヴィアンローズ。
「キランッ」はラヴィアンローズが自分で言った。
ラヴィアンローズは決めポーズを解くと、剣を一振りして鞘へ納めた。その立ち振る舞い、一連の所作は美しいの一言。
「ラヴィちゃん凄え、剣道とかしてるの?」
「いやいや、モフモフさんこそ凄かったよ。短剣が突き刺さってたし。もしかして忍者ごっこが趣味とか、生き甲斐とか?」
倒れたNPCは死亡したと見え、姿が消えた。
モフモフさんは地面に残った二本の短剣を拾うと、腰のホルダーに短剣を納めていた。
「あっ」
「何?」
「ラヴィちゃん赤ネームになってないね」
そう言われて俺も、モフモフさんの頭の上のネーム表示を見た。
「モフモフさんも大丈夫だよ! 良かったね」
(NPCだから、PKにはならなかったのかな?)
「そうだ、ラヴィちゃん、ロビーちゃんはどうなってる?」
「いや、ちょっとわかんない。見に行こう」
(確か飛び蹴りを喰らわすとか言ってたけれど)
俺とモフモフさんはさっき渡って来た吊り橋に追いつこうと走った。街が時計回りに回転しているから、ロビーちゃんが居るのは今さっき通り過ぎた吊り橋の先だ。
右手に街を見ながら走る。順番から行くと次の吊り橋だ。
「まだこのバフ効いてるね」
薄く青白い光で包まれたモフモフさんが言った。
「有効時間が表記されてないんだ、覚えとこう。運営にメールするよっ」
ラヴィとモフモフが吊り橋を渡ろうとした時、街の方からロビーが走って出て来た。
2人に気がつき立ち止まって、手を振る。
「ロビーちゃーん! やっつけたよー」
「2人ともどうしたの? 青いオーラに包まれてる」
俺たちを見てロビーちゃんが言った。
まだこんなバフを掛けて歩き回っているプレイヤーは居ない。
「どうして急に話せるようになったんだろうね?」
「あっ、それなら中に居るGMさんが説明してくれたよ」
「えっ、ロビーちゃんGMと会ったの?」
「あははっ、さっき飛び蹴りしようとした人。あの人GMだった。きゃはっ」
(きゃはって可愛い。使える! 俺のネカマ用語大全に追加だっ)
「GMってことは、じゃあ最初に暴言を吐いたあいつがGMだったって事?」
「いやいやそうじゃないの、そっくりさんだっただけで、完全に人違いでした」
(ニッコリ微笑んでいるけど、人違いで飛び蹴りしたんだよね、この人)
「じゃあさ、一緒について来た2人は誰?」
モフモフさんが言った。
(はっ!えっ?もしかして?)
「あの2人もGMだって言ってたよ」
「「えーーー!!!」」
見事に俺とモフモフさんがハモった。
「まじか?やたらとNPCっぽくは無いと思ったけど、つーか超悪役にしか見えなかったけどさ」
「倒しちまった……モフモフさんが膝蹴りで。俺は剣でズバッと」
「えっ2人ともGMさんを倒したの? ギルティ決定ね」
「ロビーちゃん、その声可愛いけど本物?」
(さっきから気になっていた実物の声なのかどうか)
「ラビィちゃんだって本物なの?」
ゲームの中であっても実際の会話の様に、目と目を合わせて話すラビィとロビー。
(相変わらずちょっと首を傾げて話すロビーちゃん、ずるいよその仕草。かわゆすぎるっ)
「おいおい見つめ過ぎだっつーの! ラビィちゃん、本当は女が好きなんじゃねえか?」
(あらら、モフモフさんて勘違いしてるのか? ネカマってのは、女の子になりたい男の子の事なんだよな。だから……女の子の事は大好きなわけっ。という事で、俺は急いでキャラの音声を変えるウインドゥを開いた。音声はステータスの項目から飛べた。ふむふむ)
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会話方法の設定
文字入力〈on/off〉
マイク音声の利用〈on/off〉
エフェクトの使用〈Y/N〉
マイクを、onにしてエフェクトをYにする…
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エフェクトの種類の選択
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お婆さん 〈 _ 〉
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(実音声は使わない事にする。だって、カラオケで経験済みだし失敗はしたくないからな。ここは実音声無しの、乙女 女性を選ぶ事にする)
「えっ、わたし男が好きとか言ってないけど」
「あっ声変えたっ! まじかラビィ、現実から逃げたなっ!!」
「あらっ、人聞きの悪い。モフモフうさぎさん、女の子には優しくしないといけないのよ」
「キモォォォ」
頭を抱えて地団駄を踏むダークエルフ。
「僕も変えてみたよ、どう、わかる? それともわからない?」
「えぇぇぇぇ! ロビーちゃんはそのままの方が良かったのに」
「ちょっとモフモフっ、あたしじゃ満足出来ないっていうの?」
「うるさいっ、黙れラビィ」
「ひっどーいっ、どうせそこの尻軽女にしか興味がないって言うのねっ」
「僕が尻軽女ってラビィ、いくら僕のことを許せないからって、それはないだろう」
「あーも、めんどくせぇよおぉぉぉーーー」
モフモフうさぎの悲痛な叫びが響き渡った。