123 運命の定義
「お姉様が料理を、しかもとても上手なの。どうして?」
「……」
リサの言葉が耳に入らないのか、それとも気にしていないだけなのか、鼻歌を歌いながらキッチンに立つロゼッタが居た。
「リサ、うさぎもローズも帰ってないわよね?」
ちらっと顔を上げてリサを見て、再び肉に目をやるロゼッタ。城の巨大なキッチンと言っていいものか?
ずらりと並ぶステーキは、波打つ鉄板の上で焼き目を入れられて、手際よく裏返されると滴る脂から香ばしい白い煙が立ち昇る。
「お姉様、どうしてそんなに料理が出来てしまうの?」
声が震えるリサ。明らかに自分よりも料理のスキルが上、それはモフモフうさぎの方がローズよりも美味しい料理を食べることが出来て、詰まる所うさぎの方がローズよりも上だという事になる。という理屈が頭の中で浮かび上がったリサ。
(まずい、さすがにリサも焦ってるの。だって美味しそうなんだもん。単純に肉を焼くだけなのに何であんなに機械がいるの?)
「リサ、テーブルに並べるね」
しおらしく先に出来上がったサラダや、茹でた何かの塊とか、嗅いだことない美味しい匂いがする、皮目に焼きを入れた魚とかを運んでいくリサ。
スワンから外の世界の情報を貰うロゼッタは、料理のレシピ、そして料理の動画を知識として既に持っていた。薄々理由はわかっていたリサも、実際にここまで差を見せつけられると、明日から勉強しなければならないと決意せざるを得なかった。
「ちょっと悔しいの。ロビーも上手にお菓子を作れるし、なのにリサは食べるだけで作ろうとしなかったの。明日からリサも始めるんだから」
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そこにあるのは光と温もり。感じるのはその人次第。誰もがそのありがたみに感謝しろって言う。そんな心のゆとりが有れば、それに気がつく余裕もあるさ。
満遍なく与えられたはずの時間が、誰一人として同じ時間ではなくそれがいつ途切れてしまうかを、誰も知りはしない。
どうして誰も知らないんだろう?
その問いかけに運命の女神は答えてくれた。
人には教えない。教えてしまうと人は他人の幸せを奪おうとする生き物だから。人は人以外の生き物の寿命を知りたがる……それを知ってどうしてきたか覚えている?
奪って壊して、揺らして砕いて、光塵にしてから嬉しそうに笑うの。
馬鹿でしょ、人間って。大好きよ、だから教えてあげない。
お前達が、いつ死ぬかなんて。