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121 約束を果たす為に

「今日の最後は、服のセンスが良いわ。 そこだけは褒めてあげる」


 壇上に上がった紺色のスーツ姿のモフモフうさぎに、ロゼッタが声を掛けた。


「俺の名前はモフモフうさぎ。 自分じゃ好きでもないんだけど。 黒うさぎと呼ばれてた時もある」


「ふん、面白い。 ダークエルフの黒うさぎ、それで他に何か用でもあるの?」


「確か、あんたは龍の目玉を持って来いって言ったそうだな」


「あれはもうよいわ。 ピンと来るような物を誰も持って来ないってさすがに私も気がついた。 もう諦めたのよ」


 両手でお呼びでないとポーズをとるロゼッタ。


「待ってお姉様、黒うさぎは何か隠し持っているわ」


「どこに?」


「リサ、もしかして龍の目玉って小さいもの?」


 ロゼッタはモフモフうさぎをまじまじと見て、首を傾げて言った。


「あの、聞いてくれ。 最後だしもう観客席も帰ろうとしてるけど、ちょっとならいいだろっ」


「お前がなぜ黒うさぎと呼ばれるかわかったわ。 その無礼千万な口は、どこかの田舎者丸出しの間抜け面にはピッタリだし。 まあ良い、田舎者に免じて少しだけ聞いてあげる」


「今日俺がここに来たのは、約束を果たす為だ。 時間が掛かったけど、やっとここに立つ事が出来た」


「約束って、誰との約束? もしかしてお前もわたしを殺めようとする輩の1人?」


「なんだそれは? そんな事があったのか」


「約束って?」


 脱線しそうな話を元に戻すリサ。


「あ、ああ、俺はモフモフうさぎ、あのさっ、改めて自己紹介だけど、ダークエルフの無職、戦士であり魔導士でもある。 そういや "ナイト オブ ナイトメア" なんて称号も持ってる」


「ふ〜ん、自意識過剰な自己紹介ね。 思い込みもいいところだわ。 それで?」


 モフモフうさぎを見つめる2人の視線、リサはモフモフうさぎの事を知っている。 自分が3度目のリサである事も……


 ── 初めてのリサは、目の前のモフモフうさぎに殺された。 2度目はローズと一緒に自ら崖から飛び降りて、この世界から消滅した。


 目の前のモフモフうさぎとロゼッタの間で、何があったのかをリサは知らない。 生まれ変わったロゼッタも当然覚えてはいない。 モフモフうさぎが何を言い出すのか気にしながら、リサはロゼッタの右側に立った。


「俺は、名前も知らない、とある港町の通りで()()()女をこの手で殺めた」


(なっ、お前はロゼッタ姉様までも手にかけたの?)


 リサの眉間にシワが寄る。


「何でそうなったのか、あの時からずっと考えて来た。 俺は守らなければならない人を守る事が出来なかったんじゃないか? 上手く言えないけど、そもそも俺なんかじゃ誰一人守る事なんて出来てなかったんじゃないかって」


 モフモフうさぎの視線が、冷たい表情になったリサの顔を一瞬よぎる。


「人殺しの黒うさぎが、事もあろうか女子(おなご)を手にかけたと……ふんっ、帰れ。 時間の無駄であったわ」


「お姉様、リサはまだこの男の話を聞きたいの、だから姉様も一緒に聞いて。 お願い、リサは聞かなければならないの」


 ロゼッタが椅子に深く座り直す。


「余興じゃ、続けよ。 うさぎ」


 深呼吸してモフモフうさぎは話の続きを始めた。


「俺が殺した人は、俺の剣を自ら自分の胸に突き刺して俺に言ったんだ。 自分には未来が見えないって。 それが幸せでも、そうでなくても、それでも一緒に居てくれる誰かもいない。 私にも未来が欲しいって」


 普段とは違う雰囲気のロゼッタとリサ、帰りかけていた観客席の聴衆が席に戻って来ていた。 誰も喋っていない。


 ── 静寂の中で、誰もがモフモフうさぎの話を聞いていた。

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