115 街のお仕事
スワン達が本当に家に帰って寝ている間も、ゲームの中での時間は、現実世界の倍の速さで時間が流れて行く。
GM達も居なくなったアクエリアの中で、モフモフうさぎも帰ってしまい、残るのはラヴィとフレディ。
北の大通りでは、かなりの家屋が破壊されたままになっていた。昼の間にプレイヤーの有志が集まって瓦礫の片付けをしてくれてはいた。しかし、半壊、全壊の建物の補修が出来るスキルはゲームの中に存在していなかったので、真夜中の今では店のNPCも居ない寂しい廃墟が建ち並んでいる状態だ。
「さぁっ、始めるわよ」
腕まくりしたラヴィがフレディに声をかけた。
「はいっ? ラヴィさん。で?」
助手としてついてきているフレディ、実際モフモフうさぎが居なければ、ラヴィの側に居るしかない訳だが。
ラヴィが建物用の携帯端末で、壊れた建物の範囲をモニターの中に収める。
「ポチっと」
ラヴィがそう言うと、目の前にあった半壊の家屋が一瞬で消えて、更地になってしまった。
「ええっ? 消す事も出来るんですか、それってすごい」
「でしょっ、あなたがぶっ壊した街を元の通りに戻すの。あなたが」
「いや、そんなに強調しなくても……すいません」
「ねえ、フレディ。あなたの手、短くなってない?」
「わかりますか?」
「うん、気づいていた? 私はリサの糸、まあ私の糸でもあるんだけど、あなたを糸で覆っているから少し袖丈が合わない気がしてたの。そっか……」
フレディには見えない糸で、ラヴィはフレディを包む糸の手直しをして行く。
「いいわよ。うんっ、ぴったり」
包まれた体は少年に見える。でもその下には、ゴブリンの体、黒い皮で出来た服を着た自分が隠れている。いつまでもこうしていないといけないのか?
ふと疑問に思うフレディ。
そんな不安を吹き飛ばすかのように、明るいラヴィの声が響いた。
「さあっ、お家を建て直していこう!」
△▽ △▽ △▽ △▽
大通りに面した家やアパートの1階は、昨日まではレストランや食堂が並んでいた。壊れた家を消し去って更地にしていく音もなく行われる改修作業であったが、薄暗い通りに崩れた街並みが一層暗さを増しているので、コソコソと動く2人に気がつくプレイヤーは居なかった。
ラヴィは携帯端末のリストの中から、3階建のアパートタイプで1階部分が店である住居を選ぶ。このタイプのアパートは店舗のタイプと付属するNPCの人数が選べるようになっていた。
NPCの数を0にしてから設置して行く。もう既にこの街には元々の店のNPCが存在している。今はどこかへ消えているけれど、昼間はお店にやって来ていたそうだから。
大通りに入った最初の両サイドは、食べ物屋さんだったはずだけど、その次の店のタイプが何だったか覚えていなかった。ラヴィはたぶんカフェだった気がしたので、通りにテーブル席が設置されるオープンテラスタイプのカフェを選んでおく。
次第に通りから離れて北東の街中へと移動しながら、壊れた家屋を消しては作っての繰り返しで、町の補修は完了したのだった。
「どう?フレディ。いい感じでしょう」
「何か同じような家ばかりで、アクセントが無いような……」
「これでいいの、見てなさいっ」
最後にトロールを倒した場所の周りの家を作り変えてから、ラヴィは路地で折られてしまっている街路樹を復活させていった。根元から折れてその先はどこかへ消えてしまっている木も、ラヴィが声をかけて行くと不思議な力で一気に繁茂した街路樹に姿を変えていくのであった。