109 ベルクヴェルク撤退
ベルクヴェルク討伐本部の周辺に、人の声が溢れてきていた。自動精算システムが本部には設置されている。部隊に参加した人達は毎日アクセスする事で、報酬を手にする事が出来た。
「あの、私はラヴィアンローズ。本当は女なのに男のふりをしてました。よろしくねっ」
「僕は、フレデリック。モフモフさんの1番弟子です。得意なのは、潜入、工作、破壊、召喚魔・・」
フレデリックのお尻をラヴィがつねった。喋り過ぎって言いたいらしい。
「痛ててっ、どうぞ宜しくお願いします」
GM達の反応がモフモフの時と違って薄い……2人とも、モフモフうさぎの友達の扱いのようだ。
ハルトから、ピクシーがユニークアイテムの扱いについて窘められている時に、途絶えていたままのベルクヴェルクに居たGMソフィーの声が、GM専用回線に流れた。続いてGMヨシロウとGMディーノの声が続く。
《本部に連絡。ベルクヴェルク防衛隊は壊滅しました。隊員及び、私達はアクエリアの噴水広場から一旦そちらに向かいます》
ソフィーが部隊としての報告を入れた。
《歩きながら話すけど、スワン聞いてる?》
《お疲れ様ソフィー、こちらアクエリア本部。スティングとポールとピクシーはもう帰って来ているよ。何が起きたかはこちらでも把握している。コーヒーを淹れて待っているから》
《了解、冷たい水でいいわ。ちゃんと録画してた?》
スワンがミュラーを見る。
《心配ないよ。お疲れ、ソフィー、ヨシロウとディーノも》
《ミュラー、今俺達は北の大通りを歩いているんだがどうしたんだ?街が破壊されているぞ》
《あっ、ヨシロウ。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?》
《なんだぁ?》
《うちのリュークがその辺りに居るはずなんだ。だけど連絡もないし、声を掛けても返事が無い。座標を送るから、帰りついでに行ってくれる?》
《いいけど、片付け作業の指揮でもしてるのか?忙しくて回線を開いていないとか……》
《まあ、行ってみてくれよ。さっきスワン達が向かいかけたんだけどね。〔AQ3.56〕だ。大通り沿いのはずだから、よろしく頼みます》
《了解》
GM専用回線の音声は、討伐本部のモニタールームではスピーカーから流れているので、モフモフうさぎやラヴィにも会話を聞くことが出来た。
「外に帰って来た兵隊はどうする。早く誰か出て行かないといけないだろう?」
ドワーフの王子スティングのハルトが、外を気にして言った。
「ベルクヴェルク討伐隊の目的が、今の状況では無いも同然。考えたんだが討伐隊は一旦解散するのが良いと思う。ゴブリンは俺達で解決しなければならない問題だった。これ以上ユーザーを巻き込んでもな……」
「俺も同じ意見だ。俺とピクシーで外に居る兵隊達に伝えて来るよ。ミュラーは、全体チャットでやってくれ」
ポールとピクシーが出て行った。スワンとハルト、そして端末を操作するミュラーは、それぞれ考えをまとめているのか、押し黙ってしまった。
モフモフとラヴィ、フレデリックは空いているモニターに映るベルクヴェルクの街を場所を変えながら観ていた。
「ねえ、モフモフさん、フレディ、今何か……」
ラヴィがモニターを見ながら小さな声で言った。
映っているベルクヴェルクの画面、そこはハルト達が最後まで居た鉱山の入り口のフロア部分。何か動いたような気がした。