105 噴水広場の朝
急に噴水広場の方から、人の声が溢れ出してきた。
次々とログインしてくるプレイヤーの格好が酷いことに、周りの人々……と言っても先にログインした周りの人々がみんな同じ有様だから、お互いの酷い格好を見て笑っているのだが・・
「何が起きたかわかった?」
「いや全然、とりあえず死んだな」
「全滅でしょ?貰った武器と防具無くなったね」
「うん、全く活躍しないまま終わった」
ベルクヴェルクで全滅した部隊。そこに居た隊員達が、順を追ってログインして来ている。最後に死んだ北門辺りの警備兵だったエルフ達が、3度目の衝撃の瞬間を目撃していた。
「でっけーハンマーがって、街の3分の1ぐらいの面積だよ、叩くところが。まじありえない金槌で街を潰しやがった。もうねっ、逃げようがなかったよ……恐ろしい、アンタレスまじで恐ろしや」
「ゴブリン退治じゃなかったの?」
「全然、1匹も出てこなかったし。まさかこれも運営の陰謀……やっぱな、相変わらずユーザーをいたぶるのが好きな奴らだわ」
「なるほど〜、確かにそうだよね。誰もゴブリンなんて見てないもん。偵察隊って全滅したって話だけど、その時の隊員って1人も今居ないよねぇ……」
「ということか、あれも全部仕込みって事。納得。おかしいなって思ったもん。わざとらしくやられたフリして話しかけても、まともに返事が出来ないみたいな」
「騙された〜。演技や、まじかあれっ。信じてたわ俺。やられた、やられたっ」
「とりあえずお金貰いに行こうぜっ。死んでスキル経験値下がったんだし、貰うもん貰わないと合わんわ」
ぞろぞろと北門に向かって移動を始める人々が、次に見たのが破壊された街並みだった。
「あらら、こっちでも何かやったんだ。うわぁひでぇな」
「本当、色々仕掛けて来たね、運営さんも。相変わらず潰すのがお好きだけど」
「金貰ったら次どうする?お披露目会でも行く?」
「飯食おうぜ。ピクシーさんがくれた携帯食ですらめちゃウマだったやん。店の飯がうめぇって話は本当なんだよ、きっと」
「だよなぁ、あんなの気分気分と思ってたのに本当に美味かったし」
破壊された街並みも彼らにとっては、イベントの1つにしか見えていない。本当の恐怖も笑って片付けてしまう軽さがアクエリアにはまだあった。
△▽ △▽ △▽
《スワンっ、おーい。聞いてるかー?》
ミュラーからポインタを通じて直で声が掛かった。
スワンはGM回線に切り替えて返事をした。
《こちらスワン、何か起きたのか?》
《スワン、ハルトだ。ベルクヴェルクが壊滅した。街が無い……鉱山の入り口にゲートを設置してくれないか。1回通るだけでいい、ここから森のゲートまで行ける気がしないんだ》
ハルトが割り込んで話をして来た。口調から焦っている様子が伺える。
《スワン、早く戻って来い。モニターで見れば分かる。緊急事態だっ》
ミュラーも会話に混ざって来た。
《わかった、すぐ戻る》
「モフモフ、ラヴィちゃん、ベルクヴェルクがまずいことになったらしい、一旦戻ろう」
そう言ったスワンの視界の先に、ぞろぞろとベルクヴェルク討伐本部に向かう人々の姿があった。