99 解放
「モフモフさん、走りながら聞いてっ」
「なあに、ラヴィちゃん。いったい誰の顔なのそれっ。可愛いけど、声まで変えてまるで女の子じゃん。って言ってもらいたい?」
「言ってもらいたいってとこは余計だけど、そうよっ。これが私の本当の姿なの、ついにお披露目する事が出来たわ」
夜道を走る紺色のスーツ姿のダークエルフ、冒険者達がこぞって着用している防具の類を一切身につけずに、ラフな格好で髪を揺らす私。凛々しい少年の姿のフレデリック。
「ラヴィさん、やっぱりおかしいと思ってたんです。モフモフさんがなぜラヴィさんの事をラヴィちゃんと呼ぶのか。やっと分かりました。ラヴィさんは、本当の姿を隠していたんですね。私はこんな美しい女性を殺めようとしていた。あなたが強い女性で良かった……って言えばよろしいですか?」
「……そう、フレデリック。あなたもモフモフと同じ、能書きをペラペラと喋る、冗談がキツイタイプみたいね。可愛らしいロリロリの美少女の姿になりたいのかしら」
「私には無理ですね。そこまで吹っ切れません」
(吹っ切れるんじゃなくて、素直になるって言って欲しいね。まっ、そもそも素養が無ければ無理な話だし。今の私の顔って、あの時のC.Cを思い出して描いたもの。あれから会ってないけど、元気にしてるのかな?)
「ラヴィちゃん、話って何?」
「あっ、あのね、私リサと会ったの」
「えっ? ちょっと待ってよ、一緒にお披露目会に行くって約束したじゃん。抜け駆けしたのかぁ」
「違うわっ、街の中で会ったの。噴水広場の……そうだ、モフモフさんっ、噴水広場の所に家があった。スワンが約束したじゃん、お詫びに家をくれるって。メールに座標が届いていたもん。俺いちばん乗りだったよ」
「あ〜、その話し方じゃ男と女がぶれぶれだよ」
「そうですね、聞いているとラヴィさんはまるで、オカ・」
「フレデリックっ!! 今、私の事をネカマ言うたなっ!」
「言ってませんっ、私はあの……オカマって」
「私の事をそんな風に思っていたのねフレデリック。でも仕方ないわ……これが私の定め、本当の自分を偽って生きていかなければならない定めなのっ。あなたが今までの私に騙されていたとしても、仕方ないわっ」
「嘘つけっ」
「聞こえてるよっ、モフモフさんっ」
「ラヴィちゃん、家の話よりリサの話。どう言う事なん?」
「はいはい。うんとねっ、私の顔に薔薇のタトゥーがあるでしょう」
「うんっ」
「リサが言うには、広場を歩いていたら薔薇の匂いがしたんだって。それでね、あの時のリサはロビーちゃんに変装していたの。今の私の様に、糸で姿を変えて。だから最初は私もリサの事がわからなかった。だけど、話をしていたらロビーちゃんではなくて、誰? ってなって、流れで彼女が私の薔薇のタトゥーに触れたの。そしたら・・」
「そしたら?」
前を向いて走るモフモフさん。
(頭の中はきっとロゼッタの事を考えているんだと思う)
「ラヴィちゃんっ!」
「あっ、そしたらリサの糸がほどけて、ロビーちゃんだったのがリサになってしまったの。その時に、リサは記憶を取り戻したわ」
「元に戻ったのか?」
「多分、でも今のリサの記憶も残っているから戸惑っている感じのように見えるんだけど、リサってやっぱり良く分からない所があるから……どうなんだろ?」
(どうなんだろう? あの後、リサと2人で居てなんだかギクシャクして、不思議な感じが続いていた)
「うおぉぉぉぉっ」
「わっ!! どうしたっ、モフモフさん」
モフモフさんの突然の叫びにフレデリックもびっくりして、私の方へ寄って来た。
「ラヴィちゃん、俺も早くロゼッタの所に行きたい。こうしているうちにも時間が経って、今のロゼッタがどんどん進んで行ってしまう。そうなった時に、昔の記憶を取り戻してもそれが彼女には要らない物になってしまっていたら……馬鹿みたいだろっ。行こうと思っても今のロゼッタを変えてしまう事がいいのかって悩んで、結局動かないまま俺は……」
(思い出せっ、ロゼッタの姿。リサと寄り添う紫紺のドレス姿。やってみる、低いトーンのあのツンツンした声も……)
私の姿をロゼッタに変えていく。