97 裏切りの跡
「それで、この街に本当にフレデリック単身で潜入して来たのか?」
俺とモフモフさん、そしてゴブリンのフレデリックは、人目につかない場所、俺がスワンからトボトの町を作るために借りパクしている、建造物を自由に設置する事が出来る端末で作った民家の中に居た。
俺がチャチャチャと、空き地に家を出現させたのを見て、フレデリックは口をポカンと開けて、
「家が出来た……ラヴィさんは神の化身だったのですか! 私はなんと言うことをラヴィさんにしようとしたのか」
呆然と立ち尽くし、その後ろで、それ見せちゃダメって仕草をしているモフモフさんがいた。
(確かに、誰でも欲しくなるアイテムに違いないし、物欲も、探求欲も人を狂わせるからね)
俺はフレデリックの目の前で、家作りの端末をリサの糸で巻いて見えなくした。光学迷彩としてリサの糸を使った訳だ。
手の中から端末が消えたのを見て、フレデリックが何度も俺の顔と手を見比べる。端末が俺の魔法でしかこの世に存在しないって言う話をまるっと信じ込ませる為に、それを何度か繰り返したら、普通に光学迷彩の方がバレた……
(バレちゃしょうがない)
実際、端末は俺しか使えないように紐付けされているし、フレデリックにその事もちゃんと説明をした。
で、今何をしているのかと言うと……プチ尋問。備え付けのテーブルの上に、アクエリア神殿で拾った黒い玉を載せて、これは何かと聞いているところだ。
「それはゴブリンの呪い玉、私がルチの時にラヴィさんに奪われた物です。私がアクエリアに潜入した真の目的は、アクエリアの水を毒で汚して、アクエリアに住む人間を全て殺してしまう事でした」
「えっ、マジか?」
「この玉って、やばいんじゃねぇの!?というか、その計画がものすごくやばいんですけど」
「普段はこの袋に入れて持ち歩いていました」
フレデリックがテーブルの上に取り出した皮袋を見て、俺も自分の道具袋をテーブルの上に置いた。
「この中に俺は入れてた。中はもうダメかなぁ?」
「大丈夫です。水に入れるまでは呪いは発動しません。私は……危うくこの呪い玉をアクエリア神殿の泉に入れる所でした」
「ほんと、ギリギリだったね」
「あの、いいか?」
黙って聞いていたモフモフさんが口を開いた。
「1つだけはっきりさせたい事がある。フレデリック、お前は何でアクエリア神殿の泉の事を知っていたんだ?そもそも常識みたいに知っている事なら、別にいいんだけど」
「いや、ベルクヴェルクの街に手紙が落ちていたんです。それを誰かが見つけて直ぐに……端的に言うと、アクエリアの誰かの裏切り。ゴブリンはその情報を手に入れて、確信しました。アクエリアという人とエルフが沢山住む場所があるという事を」
《聞いてるか?スワン。ゴブリンのフレデリックが言っている事を、そのまま伝えるからスワンの考えも聴きたい》
モフモフさんが、俺とスワンとモフモフさんの3人専用の回線でスワンに話しかけた。
《今はモフモフにポインタを合わせて、そちらを見ている。と言っても手元のモニターでこっそりとだがな。会話はこの回線でなんとなくラヴィちゃんが、さっきからわかるように呟いていたから聞いていたよ。モフモフとラヴィちゃん、裏切り者はうちのGMの1人だ。間違い無い……GMで1人会社に来なくなった奴が居るんだ》
《もうちょい聞いてみるわ》
「フレデリック、んでその手紙には他に何を書いてあったか知ってる?」
「はい。ゴブリンは全員知ってます。みんなは1人、1人はみんなです。ゴブリンの王様はみんなを集めて内容を教えました。アクエリアという街がある。人とエルフが住んでいる。奴らはゴブリンを殺しに来る。もう既に軍隊を作ってベルクヴェルクの近くに4つのゲートを設置している。偵察隊は来たけれど全滅した。だけど隊長は無敵だ、殺せない。だから俺は許せない、と書いてあったと」