95 純粋ゆえに・・
モフモフさんは、 『ロゼッタ』とだけ言った。
俺が霧の谷ストレイでリサを失った後に、モフモフさんもロゼッタと何かあったらしい。俺はリサがあの時壊れた理由を知っている。だからロゼッタが壊れたのも同じ理由で、ロゼッタが次のフィールドにモフモフさんを倒さずに一緒に行ってしまった事が原因、それがロゼッタが壊れて消えた原因だろう。
(モフモフさんは、ロゼッタの事で余り多くを語らないんだ。ただ、あの時出会ったロゼッタを取り戻すってずっと言ってる。だとしたら、俺がリサと既に会ってしまって、しかもリサが記憶を取り戻したって話を後でしなきゃ)
「モフモフさん」
「うん」
(モフモフさんも何か考え事をしてたみたいだ)
「よくここだって分かって来てくれたね、ありがとう」
「あぁ、いや、噴水広場にログインしたら人が居ないし、街はボロボロだし。何か起きてるってすっ飛んで来たら、こいつがラヴィちゃんを殺そうとしてたんだ」
(こいつ、そう、ゴブリンだ。何か言いたげだけど、何も喋らない)
「本当に大丈夫? もしかしてだけど、モフモフさん、催眠術とかにかかってない?僕を偽って、最後はゴブリン様の勝利になるとか」
「……おいっ、お前俺に催眠術をかけたのか?」
モフモフさんがそう言うと、ゴブリンは激しく首を横に振った。
「ほらっ、ちゃんと伝わってるだろ」
「うん、じゃあ聞くけど。ゴブリン……って呼び方も変だし名前とかあるの?無ければつけちゃうけど」
「いや、ラヴィちゃん、名前は人の尊厳に関わる事だ。おいそれと俺達が勝手な事をするわけにはいかないと思う。見てくれ……こんなに萎縮してる。こいつこんなんじゃなかっただろ。今俺がポチって名前をつけたら、こいつは反論出来ずにポチを認めてしまう。そんなの俺は嫌なんだ」
「わわっ、う、うん」
「こんな事を言ってごめんな、ラヴィちゃん。俺達はいじめっ子じゃ無い。俺はやられる辛さを知ってるんだ」
(勝手にあだ名をつけて呼ぶのはいじめっ子のやる事。俺は無意識の内に、このゴブリンを・・)
ゴブリンが俯うつむいて、モフモフさんの言葉を聞いている。肩が震えているのは壊れかけているせいなのだろうか?
「ルチ、ゴブリンの名前はルチです。ルチはモフモフさんのルチになると決めました」
下を向いたまま、絞り出すようにゴブリンは話し出した。
"モフモフさんのルチ" と言う言葉に力を込めて、彼は言った。
(モフモフさんにガツンと言われた。勝手にあだ名をつけて呼ぶのはいじめっ子のやる事だって。その通りだった。目の前にいるゴブリンにはちゃんと名前があった……)
「ごめんなさい」
(顔が熱い、悔しい)