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94 抜け殻を抱えて

 トロールの角笛(つのぶえ)という名前のアイテムをラヴィは拾って、街の外の方を見た。屋根の向こうに見えるのは暗い星空で、そこにモフモフさんが居るというわけでもない。


 モンスターからのドロップアイテムの所有権は、倒した人よりも、そのモンスターに与えたダメージの量が1番多い者に最初はある。


 今回トロールを倒したのはモフモフうさぎで、ラヴィではなかったし、致命的なダメージを与えたのもモフモフうさぎであった。一定時間が過ぎれば、ドロップアイテムは誰でも拾う事が出来るが、マナーとして横取りはしないものだ。


「後で、モフモフさんにあげよう」


 吹いたらトロールが呼べる、ただし1回だけ。そんなアイテムだ。


(あんな凶暴なトロールが呼べたら、大変だよね。戻すのはどうすんだろ。出っ放しなのかな? 多分出っ放しの気がする)


「はぁ〜、何か疲れた。モフモフさんはもうゴブリンを倒してる頃だよね」


 勝手にゴブリンは倒されるモノと決めつけてしまっているラヴィ。モフモフうさぎが別物なのは、霧の谷ストレイでのモフモフを見て知っているからだ。


 《スワン、聞こえる?》


 《ラヴィちゃん、モフモフは?》


 《あっ、見てたの?》


 《心配でな、突然ゴブリンがラヴィちゃんの後ろに立った時には震えたぞ。いやぁ》


 《その時はさっさと教えてよ……気がつかなかったのは僕のせいだけど。でさっ、今モフモフさんはゴブリンを追って行ったよ。そっちでポインタをモフモフさんに変更して見てみて。どこに居るか僕にはわかんないし》


 《了解。しかしモフモフは強いな》



 ▽△ ▽△ ▽△



 モフモフうさぎは、確かに強い。


「でもさっ、もうちょっと早くログインしてくれたらこんなにならずに済んだのにねぇ」


 ボロぼろになった街並に、ラヴィは語りかけるように独り言を言ってみた。


「ははははっ、すまんすまん。寝てたっ、そして寝すぎたぁっ」


 暗がりからモフモフうさぎの元気な声が聞こえた。


「あっ、帰って来た。お帰りー、やっつけた?」


「んっ、う〜ん、うん」


「げっ、どういう事、それ? ……何で? 大丈夫なの?」


 モフモフさんの後ろから、あのゴブリンがトボトボと歩いて来ている。


「う〜ん、俺には出来なかった。キッパリッ」


(自分でキッパリって言うの……)


「どう言う事? 何か全然違うよ。そのなんて言うか、ゴブリン」


 モフモフさんの隣に立つゴブリン。あの邪険な目が消えていた。


流石(さすが)にさぁ、ただのモンスターなら殺っちゃうんだけど、こいつらも俺達と同じじゃん。心がある生き物だもん、だからやらなかった」


「意味分かんね。心って……」


 ラビィの背後のバリバリに割れた大木が、傷ひとつない葉の生い茂った街路樹に戻って行く。


「いや、心はあるのか」


(ありがとう、ローズ。元に戻してくれて)


ラヴィに街路樹達からお礼の言葉が伝わって来る。


(そうだよね、みんなにも心はあるんだから)


「そのゴブリンと言葉は通じたの?」


「うん、でも今はどうなのかな……喋らないし」


「ふーん、よく助けたね。見ていないだろうけど、こいつの召喚したトロールの被害者は物凄く多いんだよ。悲惨だったんだから」


「そっか、俺さっきまで寝てたからなぁ。ただ、こいつが豚とか羊とかだったら俺も気にせず殺ってたんだけど、って、こんな言い方をすると動物保護団体に豚と羊を差別するなって、ギャーギャー言われるんだろうけど」


「愛護団体なんてここには無いし」


「まぁ何にしろ、自分で物を考えて言葉を話す生き物には心があるって思う。さっきさ、このゴブリンがモンスターには思えなかったんだ。


「そうなの?」


「ラヴィちゃん、心があろうが無かろうがモンスターなら関係無く殺してしまうのは、昔から俺たちの特権だった。だけどその考えは正しいと思うかい? 俺は大嫌いだ」


「う、うん」


「イルカやクジラを食うなって言う国を知ってるだろ。偉そうに日本の食文化にイチャモンをつけて来るくせに、自分の国ではラクダを殺しまくって、随分前からネコも殺しまくってるんだぜ。そりゃあさ、固有種を保護する為の背景がある事ぐらい知ってるけど、どの口が言ってんだって言いたい。あいつら手前らの都合で原住民殺ってきたんだからな」


「あっいや、その話はこのゴブリンとは関係ないと思うけど……」


「さっきこいつ壊れた。そして生まれ変わった感じがした。似たような事があったんだ」


「壊れた? いつ?」


「ロゼッタ」


 モフモフうさぎはそう言って、少し黙った。ラヴィはいつもと違うモフモフうさぎがそこに居るような気がしていた。

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