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91 背後からナイフを刺すだけ

 ラヴィがアクエリアの神殿からトロールの方へと行った後に、ゴブリンのルチは炎の中で立ち上がった。


(痺れた足も感覚が元に戻ったぜ。馬鹿な奴だ、俺にトドメを刺さずに行ってしまいやがった)


 ルチの全身を包む黒い革の服は、火を通さない。炎系の魔法を使うルチが身につけていたのは当然の事であった。


「くそっ、あとちょっとでそこの泉に呪いの玉が入ったのに……何故か押し返された」


 コンコンと湧き出る水は、1mにも満たない丸く形取られた泉の受け皿から溢れると、流れ出すことも無くどこかへ消えて行く。見えない流れが呪いの玉を弾いたようだ。


(呪いの玉は、姿の見えない奴に奪われてしまった。俺に痺れ針を飛ばして来た、黄色い狐を操っていたのもそいつだ)


 ルチは泉の水の中に手足を浸けて、深さが余りない事が分かると、全身を水に浸して炎の煤を落としていった。


(奴はトロールの方へと行った。俺が死んだと思って油断しているに違いない。隙を突いて殺してやる、何ならトロールをもっと呼び出して奴を殺させてしまえばいい。それから呪いの玉を奪い返してこの泉の中に放り込んでやるのだっ)


「そうすれば皆殺しだっ、クヒヒッ」


 呪われた水を飲んで2日もすれば、飲んだ奴らは喉を掻きむしって死んでいく。この町を潤す源のこの泉を汚してしまえば、どうして死ぬのかわからないまま死ぬのだ。


 周りに人がいない事を確認すると、ルチは影から影を移動して階段を降りて行った。ルチを倒した姿の見えない奴は居ない、噴水広場の池の周りにはあの臭い匂いがしなかった。ついでに他の人間も居ない……予想以上にトロールが強かったのか、奴らが弱すぎるのか。


 ルチはトロールが街を破壊した跡を追って走る。気配を殺して影から影へ。時折、人間とすれ違うが、奴らに気がつかれる事は無かった。


(まだだ、今はまだ静かに、そっと俺の存在を消して近づかなければならない)


 進む路地の先で、地面の割れる音が鳴り響いた。その直後に、


ぐぉぉぉぉぉっ


 という声が聞こえた。声がしたのは目の前の路地を曲がった先だ。


 ルチは静かに路地を覗き込んだ。


 奴の姿が見えた……見えなくなる魔法が解けたのか、あの独特な臭いに血の臭いも混ざった香りを漂わせた人間が1人居た。奴はトロールに気を取られていて、全くルチに気がついていなかった。


(見・つ・け・た)


 ルチは殺気と気配を消して、影に溶け込みラヴィに近づいて行く。


 ゴブリンのルチが手に持つのは刀身の黒いナイフ。光を反射しない漆黒の両刃のダガーで、細身の刀身は簡単に人の肋骨の間に刺し込む事が出来る。


(このダガーを背後から心臓にひと突きして、奴を殺す。そうだ、死に際に奴に教えてやろう……トドメを刺す事を忘れるなと。そして喉笛をナイフで切ってやるのだ。トドメとはそういうものだからな)


 見事に木に包まれたトロールを見上げて、ラヴィは考えていた。まだ木の中のトロールは死んではいない、力を抜けば、木を破壊して中から出て来るに違いない……どうすれば……


 ラヴィの背後の路地の影からナイフを構えた影が近づく。それを知らせる緑がこの場所には無かった、いや、たとえ植物が居たとしても、ルチの存在に気づいた緑達は居なかっただろう。


 無心でラヴィに近づく。


 足音ひとつ立たず、空気すら揺らめかす事無く素早くラヴィの背後に立ったルチ。ルチは黒いダガーの尻に手を添えて、ラヴィの左の肩甲骨の下に目がけてダガーを勢い良く突きさ……

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