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88 呪いの玉

 空中に伸びる階段から、ラヴィは身を投げた。ゴブリンのルチが放った火の玉は、噴水の池にまで一気に飛んで行き、爆音を立てて熱い水蒸気を撒き散らした。


 幸い……と言うか、北に伸びるメインロードで殺戮を繰り返しているトロールから逃げる為、もうこの付近に人は残っていなかった。


 街の道具屋で売り出されているセーブスクロールと言うアイテムを持つ者は、次にログインすることを考えて出来るだけ噴水広場から離れた安全な場所で、このアイテムを使ってログアウトをしていった。


 ルチが、階段を舐めるように飛んで池に激突した炎の玉を見て、追跡者を仕留め損なったことに気づいた。どちらにしろ、階段の下には今追跡者は居ないということだ。蔓に気をつけて階段を急いで登りだしたルチ。


 リサの糸を、階段に掛けてぶら下がっていたラヴィが糸を手繰って階段に戻って来た。距離を離された、ゴブリンはもう神殿への階段を登り終えようとしている。


(不味いな、間に合わないかも……いや、とにかく急ごう)


 ラヴィが全力で階段を駆け上がる。後ろを気にする様子の無いゴブリンを視界に捉えて一気に距離を詰めた。


 勢いのまま、階段から飛び出したラヴィ。その姿は見えなかったが、ルチには再び追ってが現れた事が分かった。


(しつこいっ、しかも速い。こいつ強い……)


 パルテノン神殿を模したアクエリア神殿、柱の影にルチは飛び込み気配を殺す。影は神殿の中に伸びていて影の中を一気に移動して行く。この奥に泉があるはずだ。


 ラヴィも神殿に飛び込んだ。


(こいつの目的がアクエリア神殿に侵入する事だとしたら……この中にあるのは街を潤す泉、泉に何か仕掛けるつもりか?)


 黒い皮を着たゴブリンのルチは、影と同化してその姿を捉える事が難しい。素早さも限られた広さの神殿の中では互角。


 ⌘ 花開く時に君に会わん。来たれ光の友よ ⌘


 ラヴィの目の前の空間に縦に魔法陣が現れた。その魔法陣から姿を現して来るのは黄色い体、爪先と尻尾の先が白、クリッとした目のシェパードぐらいの大きさの狐っぽい使い魔 "ヒカキューンのゲン" だった。


 詠唱の声が聞こえるのも今は仕方がない。自分の存在を知らせる代わりに、ラヴィが呼び出したのはゲンと名付けた使い魔。動きの速さはラヴィとルチを遥かに凌ぐ。


「ゲン、あいつを止めろっ。蓮香石化だっ!」


 ゲンが、ゴブリンのルチに超速で飛びかかって行った。ジグザグに方向を変えながら、光の跡が暗い空間に残る。電撃が走ったかのようにゲンの動きは速かった。


 ズサササッとルチが倒れ込んで神殿の床の上を滑っていく。ルチの体には金色の長い針がいくつも刺さっていた。黒い皮の服のお陰か突き抜けるまで刺さった針は無かったが、ルチが動かなくなる程度のダメージを与える事が出来ていた。


「キューン」


 ゲンがラヴィのそばに来て体を擦り寄せてくる。何も無い空間に誰かが居る。倒れ込んだルチにもそれがどこに居るのか、ゲンを見て分かった。


(足が痺れて動かねぇ、俺もここまでかっ。馬鹿めっ、投げ込めば届く所に泉があるじゃねぇか。手は動く……)


 ゴブリンのルチが懐の呪いの玉を手で泉の方へ転がして、呪文を唱えた。


 ボォワッと炎がルチの体を包んだ。激しい勢いの炎は、神殿の中を赤く照らして、転がって行く呪いの玉の存在を消す。

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