87 神殿に続く階段
⌘ トゥリアンダフィリャ・キッソス ⌘
リサはそう呼んだ植物の魔法の蔓。アクエリア神殿に繋がる階段の両脇に、神殿から流れ落ちる小川に植えられた水草達が姿を変えていく。
ラヴィから流れ込む力は、植物に自我を与え、姿形を変える事も可能にしていった。
ゴブリンのルチが、目には見えないラヴィの気配を階段に感じて足を早めた。階段はもう暫く続くが、天空に浮かぶ白亜のアクエリア神殿は、もう間近に見えていて、黄色を帯びた光で地面から照らされて暖かい感じは、ルチには早く汚してしまいたい場所に思えた。
神殿の内部がどうなっているのかをルチは知らない。知らないが、水が湧き出す泉があるはず……その場所に懐に忍ばせたゴブリンの呪い玉を放り込めば目的は果たせる。この街の全ての水はここから始まるのだから。
突然、階段を登るルチの両脚が何かに掴まれた。つんのめって、階段に倒れ込んだルチの両手と胴体、首にまでも何かが巻きついてきて、一瞬でルチの動きを封じてしまった。
背中をさらけ出した状態で地面に捕縛されたルチに、ラヴィが近づいて来る。
⌘ 我に流れし血潮の加護よ出でよフレア ⌘
蔦でがんじがらめのルチ。首を締められて息をするのもきつい状態だったが、ギリギリの状態で魔法の詠唱を行った。生み出した魔法の炎は……自分自身、そう、ルチは自らの炎に包まれた。
くしくも、モフモフウサギがリサとの戦いで同じ事をやった。
ラヴィの頭の中に植物の悲鳴が響く。
(どうしたっ!?)
ルチを捉えたはずの蔦からの返事が無い。
(やられたのか? 今、炎がゴブリンの体を一瞬で包んだ、焼き切ったのか……)
ラヴィが歩みを止めて身構える。ゴブリンは魔法の使い手だった。だとしたら相当な手練れだ。植物と火という相性の悪さをすぐに見抜いて、自らを火で包む事が出来る……
蔓を使った捕縛は何度やっても同じだろう。そもそもあいつが再び蔓に巻きつかれてくれる保証など無い。
ルチが焼け焦げたローブを脱ぎ捨てて、立ち上がった。
ボロ布を身に纏い、ずんぐりむっくりで醜い生き物を想像していたラヴィ。しかし、階段の先に立ちこちらを向いたゴブリンの姿はそうではなかった。
手足が長く、筋肉質で、顔は小さく目は黄色い。体全体を黒い動物の皮のような物で包み込んで、片手にナイフ、もう一方の手にはスティックを握っていた。
ゴブリンの目は階段を見下ろしている。姿を消しているラヴィに焦点は合っていないが、スティックを階段の下の方、ラヴィの方へ向けて呪文を唱える。
⌘ 古の炎 火炎 魔炎 全てを焼き尽くせ ⌘
ルチのスティックから、階段を覆い尽くす大きさの火炎の玉が放たれた。
(まずいっ、飛ぶっ)
火の玉をギリギリで避けて、ラヴィが階段から身を空中に投げた。