表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/467

86 トロール召喚

(ギャぁぁぁぁぁ、でたぁぁぁ。ローズ、来て、来て、来てっ)


(いやぁぁぁぁぁぁ、汚されるっ。ローズ、ローズ、早くこいつをどこかにやって!)


(登ってくる、嫌だっ、来ないでっ、来ないでぇぇぇ)


 ラヴィの頭の中に悲鳴が重なる。ゴブリンがどこに居るのか分かった。噴水の池の階段、奴は階段を登ってアクエリア神殿に向かっている。


 この街の全ての水の源がアクエリア神殿にある。天空に延びる階段は、アクエリア中央の噴水広場から延びていて、その両脇には小さな流れが滝のようにいくつも段を作り、雫を跳ね飛ばしていた。


 大人4人が並んで歩ける階段を登りかけて、ルチが後ろを振り返った。夜になっても人でごった返す噴水広場、騒ぎを起こせば良い。


 ローブの袖からスティックの先が出てきた。次の瞬間広場の東側に、トロールが現れた。


 アンタレスの世界のトロールの姿、背丈は人の3倍、髪は長く尖ったアゴと細長く先が曲がった鼻、腕は人の胴体よりも太く、脚は更に太く大きい。前屈みに曲がった背中は筋肉が盛り上がり、髪の間から見える虚ろな目が、出現した時に足で踏み潰したプレイヤーを見て……犬歯が唇からはみ出した奴の口から、タラリと涎が垂れた。


 魔法で出現させた汚い茶緑色のトロールが、足元から上半身だけのプレイヤーを手で握って口に運ぶのを見て、ルチがほくそ笑んだ。


(もう1匹要るか? どうせならあと2、3匹放っても良いのだが手の内をさらけ出す必要は無い。ここから奴等が引き千切られて喰い尽くされる様を眺めていたいが……)


 ボリボリと骨が砕ける音が広場に響く。捕食者と獲物、トロールの攻撃範囲に居る人が、身じろぎもせずに動く事が出来ないのは、次の獲物になりたく無いからだ。


 池の反対側に居た人々が、異変に気付いて騒ぎ出した。人が喰われた、巨大な魔物が広場にいきなり現れてすぐそこに居る。


 ── 兵隊達が街の中で訓練していたのはこの為だったのか?


 そう思った人々も多く居た。だが肝心の兵隊が現れない。逃げ惑う人々と、危険を感じてすぐにログアウトしていく勘の良い人々。


 そして階段のゴブリンを追うべきか、両手に人を掴んで振り回して暴れるトロールを抑えるか、悩むラヴィが居た。どちらにしろ今すぐ決めなくてはならない、もうすぐ来るはずのリュークの部隊がトロールを抑えてくれる可能性は、あるかもしれない。だが階段を登って行くゴブリンを今追えるのは自分のみ……


 ラヴィは助走をつけると、池の端から階段へ直接飛び移った。10mを越える跳躍も、モーションスキルのリミットを解放されたマスタークラスのラヴィにとっては難しいことではなかった。


 広場では、次々とログアウトしようとする人々がトロールに襲われていた。ログアウトが終了するまでのほんの少しの無防備な時間。動けばログアウトがキャンセルされるので動けない……このシステムを呪いながら太い腕に薙ぎ払われた人は幸運だった。


 体ごと掴まれて、頭からかぶりつかれる恐怖を味わった人々は、餌としての時間軸に捉われて、絶命するまでの少しの時間を自らの絶叫と共に過ごさなければならない。


 VRの恐怖、リアルなモンスターの無慈悲な力に蹂躙されて喰われる体験は、今までのどのゲームにも無かった衝撃的なもので、安穏と構える日常がここには無いことを知らしめるには充分だったと言える。


 トロールが後から食べるつもりがある限り、餌としてその役目をこなさなければならない体の破片は、広場に散らばって、石畳を血で汚していく。


 手の届く範囲のプレイヤーを潰してしまった後に、トロールは極太の両脚に力を込めた。筋肉が盛り上がった瞬間、その巨体が弾かれたように跳んで人が密集している北側のメインロードに突っ込んで行った。


 弾き飛ばされ身体がバラバラになる人、足で踏み潰されて地面と足の裏の間で擦れて血のりを残して姿形を留めない真っ赤な肉のミンチ。


 ── これがゲームなのかっ?


 ── これぞ最新のリアリティを追求したゲーム!


 意見はきっと分かれる。ただし、死亡フラグの立った者は前者であったに違いない。


 猛威を振るい、通りの店に人の破片を投げつけて破壊を繰り広げて行くトロールに立ち向かえる冒険者は居なかった。


 アクエリアの神殿に続く階段を登るゴブリンのルチを追うラヴィ。阿鼻叫喚を満悦しながら、笑いを抑えるルチを止めるべく、自らの力を階段脇の流れの中の植物達に流し込みながら、ラヴィが階段を飛び上がって行く。


 追っ手が階段に来た事に気づいたルチ。


 しかし、ルチの前方に緑の触手がシュルシュルと這い出て来た事には、まだ気がついていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ