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84 この世界で最高の追跡者

 ラヴィは見つけた。南と西の正門は人通りが多い。自分がこの町に侵入するならば、そう考えて選ぶのは正門と正門の間にいくつもある通用門。つまり小さな吊り橋だ。


 吊り橋が掛かる場所は5箇所ある。1番人の通りが少ない場所は、真ん中。水路が湖から延びているのもこの場所からだった。


 ラヴィが真ん中の吊り橋の外に生える雑草に話を聞いていると、街の方から声がかかった。


「すいませーん、この橋、暫く使えなくなりますので。街に入るならお願いしまーす」


 ラヴィに遅れてやって来た兵隊さんだ。ラヴィが橋のたもとに膝をついて座っているのを見て呼んでくれたのだ。


 手を挙げて吊り橋を渡って来たラヴィは、街に入るとすぐに細い路地の方へ向かって行った。


 細い路地を目の前にして、ラヴィは植物の声を聞こうと集中する。狭い範囲に絞ると遠くの声も聞こえる事にラヴィは気が付いていた。


(ローズ、こっち、こっち。ローズが来るの待っていたよ。ゴブリンが通って行った、深いローブを被って臭い匂いをさせて暗がりから暗がりへ。こっちの方だよ)


 ラヴィの力が及んだ途端に、道端に生えた名もない草が、2階のベランダから吊り下げられた鉢植えの花が口を揃えて行く先を教えてくれる。


 追っ手としてのラヴィの能力は、おそらくこの世界で最強である。意思を持たない草花がラヴィの能力で眼を覚ます。緑溢れるアクエリアでは隠れる場所は、ほぼ無いと言えた。


 リサの糸で顔を変えていたラヴィ。1度糸を解いてから、全身を糸で包み直した。今で言うステルスモード、光学迷彩として機能するリサの糸はラヴィの姿を消した。姿を消したラヴィが、ゴブリンのルチに迫る。進む先々で次々に聞こえてくる声が、ラヴィをゴブリンへと導いていった。


 そして……


 もう夕暮れという時間に、噴水公園のすぐ近くに建ち並ぶ建物の間の路地に身を潜めるルチを、ラヴィは後方の建物の影から発見した。


(あれか……あの小柄な人影。ローブを被って壁に背をつけて座り込んだ誰か。やっと見つけた……葉っぱ達の言う通り1匹だな)


 《スワン、こちらラヴィ。ゴブリンを発見したっ!アクエリアの噴水広場の南西側だ。座標は……》


 ラヴィからの連絡を受けたスワンが、接近戦に特化した部隊、ヒューマンとエルフの混合部隊を率いるGMリュークに出撃を要請した。


 事情はもう話してある。街の中での有事に備えて部隊を4つに分けて、東西南北のメインロードの真ん中に展開させていたリュークは、スワンからゴブリン発見の一報を受けて、直ちに部隊へ指示を出した。


 アクエリアの南西ブロックを西のメインロードと南のメインロードから、部隊を散開させつつ路地という路地を詰めて行く。今、噴水広場近くの南西側に潜んでいるゴブリンの背後を部隊で埋めて、逃げ道を閉ざし残りの北と東の部隊が中央へ寄せて、囲い込む作戦だ。


(ゴブリンを発見したラヴィちゃん、スワンの子飼いの手下が張り付いているらしい。 スワンを介して伝わって来る情報によれば、ゴブリンに動きはまだ無いそうだ。出来れば生きたまま捕らえて、侵入の手口と、目的を吐かせたい。奴がこちらに気が付いていないなら、上手く行く可能性は高い)


 リュークがスワンに現状を報告する。


 自分は北と東からの部隊に合流して正面からゴブリンに向かうと告げた。追い立てられたゴブリン、仲間がいるかも知れない。出て来た所を叩くのは自分の役目である。


 △▽ △▽ △▽ △▽


 街の街灯に明かりが灯って、夜が訪れた事を示した。しかし、まだまだ薄明かりが残っている。


(動くのはまだ後だ。どっぷり夜が更けてもっと暗くなるのを待つ。今動けば噴水広場の階段に登る姿が目立ってしまう。誰にもバレずにやらなくては意味が無い。こいつらも、その頃になれば寝てしまうだろう)


 闇に同化したゴブリンのルチ。彼の鼻を突く匂いがこの噴水広場には漂っていた。夕暮れになってからは、より一層その匂いが強くなって来ている。


(夜咲花でもあるのか?臭え……見つけたら根こそぎ切り倒してやろう。踏みにじってぐちゃぐちゃにしてやるっ)


 近くに匂いの元の花があるのかと、周りを見回すルチ。夜目にハッキリと浮かぶ街並みには、花の姿は無かった。


(何だこの臭いは?イライラしてくる……)


 匂いの元はすぐ側に居た。ジッとルチの姿を見つめている。たまに通る人達を挟んで向かい合うルチとラヴィ。


 ルチをイラ立たせるのは、薔薇の香り。奴にとっては死の香りであった……

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