19 俺の望みは
カツッ、カツッ、カツッ、カツッ
スワンは、わざと聞こえる様に足音を立てて近づく。
ラヴィアンローズ達は、3人で何かを話しているようだが文字のチャットを使用しているので、側から見れば音の無い喜劇を観ているようだ。
(音声での会話をするにはチュートリアルでそれぞれのプレイヤーに、設定をしてもらわなければならない。地声のままで行くのか、フィルタを掛けて変化した声を使用するのか。βテストの段階で、音声のアクセスが偏った場合に、サーバーへの過負荷という問題が発生しないかどうかを確かめる為の、今回のチュートリアルの設定だった。しかしながら、今のところ全くサーバーに負荷は掛かっていない状態が続いている。だってまだ誰も音声で会話をしていないじゃないか。あ〜あ、こんな事態になるなんて、後で上司から怒られるだろうなぁ)
10数歩を考え事で潰した◆GMスワンは、3人の背後まで近づくと、誰も気にしてくれない状況に話しかけていいものかどうか悩んだ末、明るくいくことに決めた。
ただ、明らかに女エルフ " 白刃のロビー " がチラチラとスワン達3人の髪の毛を鋭い目で見ていた。
(別にカルもバッドムRもフサフサの筈だが……あらら、しまった! ネーム表示をしたら◆GMスワンと思いっきり表示されていたから、プレイヤーにバレないように消していたんだった。まぁ、どうせ今からGMであると言う事を話す訳だし、さりげなく近づけば良いか)
「やあ、ちょっといいかな? 君たちのグループチャットに失礼するよ」
(まぁこんな時は、こちらが主導権をまず確保する方が話しをしやすいからな。掴みはこれからだ)
スワンはGM3人とラヴィ達のチャットをリンクした。
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白刃のロビー>このタコ野郎、仲間まで連れて来やがった。ネーム消してるよ、やる気だわ。モフさん、ラヴィちゃん、3対3よっ、手伝ってね
モフモフうさぎ>おうよ、ロビーちゃんに暴言吐いたオッさんNPCだろっ。面白れぇ、何とかして街の外に連れ出そうぜ
ラヴィアンローズ>突発イベント来たー! これぞ最新MMO。ラヴィ、助太刀いたす! !
白刃のロビー>まさか、そっちから出向いて来るとはね、俄然面白くなって来た! 覚悟しろよっ
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◆GMスワン
「えっ、何? どういう事? 」
▼GMカル
「タコ野郎はお前だなw」
■GMバッドムR
「覚悟しろってさ、乗っかるか? 面白そうだぜ」
◆GMスワン
「馬鹿、仕事しろよっ」
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モフモフうさぎが、スワンの肩に手をかける。
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モフモフうさぎ>声が出ねぇー、ここで一発カマス所だったのにぃ
白刃のロビー>どいてっ、ぶん殴って走って街の外に
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白刃のロビーが、スワンの顔を思いっきり殴った。
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ラヴィアンローズ>ウォー、ロビーちゃん。本当に殴ったー! 無理かと思ったら出来ちゃうし
白刃のロビー>私、初めて人を殴った。手が痛い、本当に痛かった
モフモフうさぎ>他のもグーで殴って逃げようぜっ
ラヴィアンローズ>OK
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ラヴィとモフモフさんとロビーちゃんは、GM3人をタコ殴りにした後、ダッシュでゲートの方へ駆け出した。
(ダメージに対する痛覚は存在しないので、痛くは無かったが、街の中に、セーフゾーン? どうなっているんだ? もしかして、ノーマルプレイヤーの設定とGMの設定の区別とか…… あぁ、なんかミスっているな)
「もう、あいつらに乗っかろうぜ。人から殴られるなんて初めてだよ。取り敢えず俺は追いかける、倍返しだぁぁぁ! 」
Rが3人を追いかけて行った。
「タイミングは任せる。さっさとチャットに介入して説明しろよ。じゃあな、俺も3倍返ししてくるわ。電波舐めんなよっ、うけけけけ」
カルも、なぜか楽しそうに追いかけて行く。
(あちらとコミュニケーションが取りにくい。殴られている間も、思いっきり動揺して何も出来なかった。取り敢えずあの三人の音声を解放しておくか)
スワンは、ラヴィとモフモフとロビーそれぞれの音声の設定を弄りだした。
(しかし、なぜだ? あいつらの行動の意味が分からん)
── スワンは知らなかった。
アポロンビターというオッサンNPCの外見が、◆GMスワンと似ていた、というより全く同じだったということを。