1 はじまり
視界が明るくなると同時に、コロコロと水が流れる音、小鳥のさえずりが360度のパノラマで聴こえてくる。よしっと、歩こうとしたら……
視界が傾いて「ドサッ」と、音がした。
── これが俺のアンタレスONLINEの第一歩だった。
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今夜20時に、アンタレスONLINE※クローズドβテスト版がスタートする。駄目元で応募していたんだけれど、なんと当選していたんだ!
オープンワールドの広大な世界で自由気ままに暮らしていけるVRMMORPGタイプのゲームで、頑張れば国王になれるらしい。
【美麗なビジュアル、凄まじく描き込まれた世界に多種多様な種族が住み、剣と魔法の世界でモンスターを仲間達と倒して行こう! 】
みたいな謳い文句の新作ゲーム。
俺は電気屋で 【 汎用型VRヘッドギア 】なる物を3000円で買って来たところだ。昔と違って今じゃ最新デバイスも、こんな値段で売られるようになったんだってちょっとびっくりしたけど。
箱から出したVRヘッドギアを、頭から被ったら目の前が曲面のスクリーンになっていた。そこにゲームの中の視界が映し出されるタイプで、オデコとか頭の色んなところにセンサーが当たるようになっている。
口元にマイクがあって、スピーカーがなんと左右の耳元だけでなく前と後ろにも付いている豪華仕様。これで音のリアル感も再現出来るそうだ。脳波を感知してゲームの中のキャラを動かす事が出来る、画期的なVRヘッドギアと箱に書いてあった。一応、アンタレスONLINEにも対応しているらしいので使えるだろう。
取り敢えず、ゲーム機をオンラインにしてダウンロードしたアンタレスONLINEクローズドβテスト版を立ち上げる。
時刻は夜21時を過ぎてしまっていた。友達と飯を食ってたらうっかり遅くなってたんだ。
VRヘッドギアを装着した。これだけで俺は強くなった気がする。ゲームが立ち上がるまでの時間に、VRヘッドギアを被った状態で写メで撮ってそれを見てみたら、顔面拘束具で自虐中な俺が写っていて笑えた。
「おっと、始まったー!」
目の前のスクリーンにゲーム画面が映し出される。
[ログインしてください]
と、タイトル画面に表示が出ていた。パスワードとIDをちゃっちゃと入力して、ログイン完了。
── あの僕キーボードが見えないんですけど……
今気がついたけど、ブラインドタッチが必須だよね、このゲーム。チャットとかは、マイクで出来るって公式には書いてあったけど、コマンドを打ち込む時にスクリーン見ながらキーボード打てない奴には、いきなりハードル高いと思う。画面にキーボードが表示されればいいだけなんだけどさ。
こんな報告をするのも、クローズドβテストに当選した俺の義務だ。
気を取り直して、使用するキャラを決めていく。もちろん俺はビジュアル重視、そして種族はヒューマン。
── なぜヒューマンを選ぶかって?
それはなんと、このゲーム王様はヒューマンしかなれないという設定が存在するからだ。
他の種族は、エルフ、ドワーフ、獣人で、獣人には色々なタイプを今後実装していくそうだ。ちなみに男女は選べて、エルフにはダークエルフというジャンルもある。
種族を選んだから次は職種、俺は聖騎士を選んだ。剣と魔法が使えるクラスなんだけど、選んだ本当の理由は公式サイトの王様のイラストが聖騎士だったからだ。
( うん、イメージは大切!)
名前はカッコいいのがいいよな。漢字入力OKみたいだ。よしっ、俺の名前は……
「ラヴィアンローズだ」
(かっこいいだろっ! 漢字関係無いし)
みんなから「ラヴィさま〜」なんて呼ばれる日が待ち遠しいぜっ。
想像だけで興奮しながら、どのサーバーに入るかって決めていく。
※ βテストでのキャラは1人のみです( 変更不可 )
※ サーバーの変更は出来ません
※ サーバーは1つしかご利用出来ません
こんな決まりがある。だから1回キャラを決めてログインしたら、その後はずっと同じサーバーでプレイをしなければならない。実はβテストではこれが後々に影響してくる非常に大事な事なんだ。
サーバーを選ぶ際に注目すべきはサーバーの現段階での人口。プレイしている人が少なければ少ないほど、天下を取れる確率が上がる。つまりスタートダッシュが決められるって事。まぁ、既に乗り遅れているけど大した遅れでは無いはずだ。
サーバーの一覧を見ると……
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サファイアサーバー 3890
ルビーサーバー 2569
トパーズサーバー 1562
エメラルドサーバー 6
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の4つが表示されている。
(おいおい、最後のエメラルド※鯖ってついさっき追加でもされたのか? めっちゃ空いてるじゃん。まじ今ならスタートダッシュ決めれるかも。うっひゃっひゃっひゃっ…… 先に始めた奴、乙〜)
当然、俺様はエメラルド鯖を「ポチッ」と押した。
── よっしゃ始まる俺のサクセスストーリー!!
少しのローディングタイムの後、ついにアンタレスONLINEが始まった。
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視界が明るくなると同時に、コロコロと水が流れる音、小鳥のさえずりが360度のパノラマで聴こえてくる。よしっと、歩こうとしたら……
視界が傾いて「ドサッ」と、音がした。
※クローズドβテスト
オンラインゲームを正式にリリースする前の段階において、人数を制限して無料でテストプレイしてもらう状態。通常、クローズドβテストの後に、オープンβテスト、それから正式にリリースという段階を踏んでネットゲームは顧客を確保して行く事が多い。
※鯖
サーバーの事。人数を振り分けて、同じゲームのテストを複数のサーバーの中で行い、異常箇所やゲーム自体の改善点などを見つける為に用意されている。